16話 人違いかな?
「ところで岸野さん、わたしは高3になってから、何かが変わったと思う?」
頭に浮かんでいたのは、ぼくが菅原ゆきになった時期のことだった。ウィンナーの先をちょっと
「話しやすくなったよ。いつもの菅原さんより、積極的になっている」
ぼくは「積極的?」と聞き返した。やっぱり、ゆきは大人しい子だったのか。
「わたしと菅原さんの話が続くようになったことだよ」
岸野さんは微笑みながらぼくに語った。
「ありがとう」
自分の笑顔が
「わたしのことで、気になったことはあるかな?」
岸野さんは気難しい表情をして、宙を仰いだ。何かが引っかかっているみたいだ。
「もしかしてだけど、わたしたち、何年か前に
穏根川とは懐かしい名前を聞いた。穏根川は、自宅と実智中の間を北東で結んだ場所にある整備された傍流の川だ。家からだと少し遠くなるが、実智中からだと15分ほどで着く。その穏根川で、ぼくは岸野さんと会ったのか?
「ごめん、覚えていない……」
言われてみれば、誰かと会って何かを話した記憶はある。けれども、ぼくが話した人たちの中に、岸野さんが含まれていたかどうかはわからない。
「そっか、人違いなのかな……?」
岸野さんが一拍入れた後、語を継いだ。
「わたしがまだ中学生のときの頃の話なんだ。わたしと同い年くらいで、菅原さんと雰囲気が似ている女の子がいた。けどその子は、落ち込んでいる様子だった」
話からすると暗い話題のようだ。だけど今は表情が曇っていないから、続きがあるに違いない。
「わたしがその女の子に声をかけて、最後には笑顔で別れあったよ。その子が今頃、楽しく学校生活を送れているといいな」
岸野さんは上品な笑みを見せた。岸野さんの人柄の良さを裏付ける場面だ。
記憶にはないけれど、高校で岸野さんと出会う前、どこかで出会ったような気もする。中学生のとき、穏根川にときどき行っていたことを考えると、会っていてもおかしくはない。
「その話、また後で聞かせてね。ありがとう」
ぼくも微笑みを持って、岸野さんに言葉を返した。
「うん」
岸野さんが頷く。ぼくは水筒に入った紅茶を一杯飲んだ。
あれ……? 体がダルいし、頭も痛いな。体の力が脱していき、机の上で崩れ落ちた。そのとき岸野さんは異変に気づき、ぼくの名を呼びかけた。けれども、ぼくの意識と彼女の声が遠ざかっていった。
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