15話 距離感が変わる
ぼくたちは、食堂から分離した小さなオープンスペースに移動した。この場所は一定の需要があるけれど、席がまばらに空いていた。あの子たちがいないからか、肩が少し軽くなった。
「わるい子たちじゃないけれど、少しうっとおしかった」
誰も得しない愚痴を岸野さんに向かって吐露してしまった。岸野さんは「そう」と心配する相槌を打ち、返答した。
「菅原さんでも、男子との付き合い方で悩むんだ……」
男子生徒たちとの微妙な距離感の変化に戸惑っている。
「あっちは遠からず意識していると思う。どうすればいいのかな……?」
ぼくが言うと、菅原さんは右手の箸を休め、「うーん」と言いながら、左手を顎の下に寄せて、考えこむ仕草を見せた。
「最近の菅原さんは、何か吹っ切れているね。戻れとは言わないけれど、少し前までの菅原さんなら、大丈夫じゃないかな」
少し前というと、ぼくがゆきになる前までか。ゆきのことを深く理解しているわけではない。
「どうしてたかな」
状況を整理する。今の姿は男子に対し、異性の立場に置かれる。つまり男子は、ぼくのことを女子として見る。だからこちらも、男子を同性として接することが難しくなる。男だったときでさえ、異性である女子との距離感が掴めていなかったのに。
「そういうときもあるんじゃない? ちょうどいい距離感は、時間とともに少しずつ変わるものじゃないかな」
なるほど、付いたり離れたりするのは常だ。岸野さんの意見を補うと「立場」にもよる。ゆきの人間関係を崩さないようにして、自分なりの対応もしよう。
「貴重なアドバイスありがとう。焦らないようにする」
「ううん。助け合うのが友だちでしょ。気にしなくてもいいよ」
岸野さんは、ほっこりする笑顔を見せてくれた。何気ない彼女の笑顔は、胸の奥まで響き、ぼくの心地を良くした。
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