4. 友だちだから(火曜日)

14話 まるで双子のような

 女の姿になってから、四日経過した。ぼくはため息するのを抑え、ベッドの上で正座になって、目を伏せ気味にした。直近のおさらいをして、現象に対する課題を確認する。

 きのうは神社に行った。けど、SFや宇宙物理学の理論にある平行世界を信じてるから行ったわけではなかった。綾子さんに会うことで、ヒントをもらえたらと思っていたからだ。百歩譲って小説や理論上の出来事が、わが身に起こったとしても、もはや成す術すべがなく、覆すことも期待していたわけではなかった。

 ぼくはゆきのことを似ている双子みたいだと思っている。単にゆきを知るだけでは終わらせない。彼女との関係性を整理し、彼女の中に存在する理由も知りたい。それらの真相を知った後には、ぼくは元の自分に戻れるかもしれない。さらにゆきにとっても、意味のあることだと信じたい。


 朝食や歯磨きを済ませた後、ぼくは制服に着替えた。いまは、ぼくがゆきの体を借りているのだなと思う。せめて、ゆきの面目を潰すことは避けたいなと自戒する。

 洗面台の鏡でチェックする。髪にはブラシをかけたから(それぐらいはする)、毛先は広がっていない。

 ふとブラシを止め「あ、」と呟く。

 垂れ目なのかなと思っていたが、そうじゃなかった。ただの表情だった。今は目の奥に怯えがまだ潜んでいるが、ちゃんと目が乗っていた。最初に見たゆきの印象が、少し変わった。



 学校での昼食の時間に、岸野さんが話しかけてきた。「いっしょにお弁当を食べない?」とのことだった。あれ、岸野さんは学食派ではなかったか? と思う。


「わたしはいいよ」


 快くぼくが回答すると、岸野さんは控えめに笑った。しかし彼女は遠慮がちに声のトーンを少し落として、小声で語を継いだ。


「どうしようか。男の子たちと話していたんだよね。二人だけで話せないかな?」


 ぼくのすぐ近くに、男子生徒が二人いた。そこそこ仲がよかった人たちだった。けれども女になってから、遠慮がちに話してくる。申しわけないが、ぼくも彼らに対してよそよそしくなる。いまは少し距離を置きたかった。


「わかったよ」


 ぼくは少し考えてから返答した。そしてぼくは、男子生徒二人に顔を向けた。傷付けないように気遣った口調で、「わるいけれど、きょうは岸野さんと話すんだ」と話した。男子生徒の一人は「そうか。菅原さんが言うなら、しかたがない」と少々ガッカリするが、張りを失っていない声が返ってきた。もう一人のほうは、相方の男子生徒とこちらを見やり、ゆっくりと頷いて承諾の意を示した。

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