12話 抱え込まないで
「綾子さん、お久しぶりです。受験疲れたぁ……!」
子どものように軽く叫んだ。予復習を中心にやっているけれど、根を詰めてやっているわけじゃない。精神的な影響が大きかった。
「受験勉強、お疲れ様ね」
「それで綾子さん、話聞いてください」
「ゆきちゃんの悩みなら、いつでも歓迎するよ」
ぼくは誘導されるがまま、事務社の
「受験の悩み? それとも恋の悩みかな?」
ぼくは「いいえ」と答えた。
「もし綾子さんが、別の人間になったら、どうしますか……?」
静かな口調で話した。一瞬、綾子さんの顔からさっと血の気が引いたように見えた。
綾子さんは右腕で、胸の下を抱えるようにして考えている。手に持っていた
「状況を確認するかな。戻れる方法を模索するけど、めんどうだな」
綾子さんは苦笑いを見せた。その戻り方が、わからないんです。
綾子さんはぼくの顔色を窺い、尋ねる。
「ひょっとして、ゆきちゃんは" 自分探し "をしているの?」
一瞬風が吹き、境内の木々が、静かに揺れた。
「少し違う……けれど、その通りだと思います」
綾子さんは頷いてから、言葉を付け加えた。
「話してくれてありがとうね。けどゆきちゃん、腹に抱え込まないでね」
雲の合間から夕日が射す。その淡い光が、綾子さんの表情を照らす。綾子さんが一層、柔和で慈悲深い人に見えた。
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