2章 戻ることをあきらめない

3. 肩の力を抜こう(月曜日)

11話 交わるのか

 結局はゆきとぼくがほとんど変わらなかった。むしろ何が違う……?

 性別が逆転した以外は何も変わっていない。気になるのは、ゆきが見方によって違うように見えること。ぼくの知らない裏表が、ゆきにあるのだろうか? それともぼくが、SFよろしく平行世界パラレルワールドにいるのか? それならどうやって、ゆきになったのか。

 進んでいないことに焦りを覚えた。なるようにしかならないけれど。

 やっぱり、あの人に会うか。



 学校の帰り道、ぼくのよく知っている神社の石段を昇っていた。

 それにしても、この階段が長い気がする……。100段ちょっとなはずだけれど。

 ぼくの脳裏のうりに悩みがちらついていた。それを抱えながらも、石段を昇っていく。まだ体調がよくないから、余計に足取りが重い。

 気持ちとは裏腹に、昇るにつれて、周りの空気がんでいく気がした。さらに聞こえてきたのは風の音と、鳥のさえずりだ。風がヒューと鳴っている。すこし肌寒いけれど、冬に比べると温かさがある。階段の脇にある木からは、雲雀ひばりの声がする。やや遠い木からは、鶯の声も聞こえる。 

 階段は行く手を阻んでいるように見えたけれど、神社へ続くこの道は、ぼくを歓迎してくれているように思えた。

 

 行き先は神社だ。

 石段を昇った先にある鳥居とりいには、『 如月きさらぎ神社 』と書いてある。如月神社の名前の由来は諸説あるらしい。「こよみを表す」という説や「仏典ぶってんの月を表す」という説もある。

 鳥居の真ん中を少し避けて通り抜ける。

 奥の本殿ほんでんには鏡と仏像が見える。鏡と仏像があるのは、本地垂迹説ほんじすいじゃくせつに基づくから。鎌倉時代から神仏習合の思想があったけれど、この神社が建てられたのは、江戸時代初期の大阪夏の陣の後だった。神職のバトンが脈々と受け継がれ経営されていたが、明治時代初期の廃仏毀釈はいぶつきしゃくが原因で、仏像がこの土地から近畿地方に移されてしまった。先の大戦が終わった後、昭和32年に仏像が帰ってきた。

 事務社から少し手前で、巫女みこが箒で境内を掃いていた。彼女はぼくに気づいて顔をあげ、軽くほほえんだ。


「ゆきちゃん、ひさしぶり。受験で忙しかった?」


 如月神社の由来と歴史を教えてくれたのが、今ぼくに挨拶してくれた巫女の小橋綾子こばしあやこさんだ。



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