10話 悩みがあれば

 ほかにも手がかりはあったけれど、勉強にそろそろ戻らないといけない。もうすでに25分ぐらい経っていた。大事なこととはいっても、浪費ろうひも甚だしいな……。

 復習のためにノートと教科書を取り出しペンを持つと、ドアのノックする音が聞こえた。もう、いったいなんなの!?


「兄だ。部屋に入れてくれ」


 ぼくは椅子から降りて、自ら廊下に出た。


優兄ゆうにい、わるいけれど勉強するから、向こうに行ってくれない?」

「そうじゃなくて……。きょう俺が言ったことが、ゆきを傷付けるようなことがあってはならないから」


 なんだ、そういうことなんだ。人に言えないけれど、細かいなあ……。

 兄の気持ちを察っしたら照れくさく思ったけれど、ぼくはそれを抑えた。


「正直言うと、気になってた」


 ぼくがそう言ったら、兄さんは「そうか」と呟いた。


「ゆき、もし悩みがあれば言ってもいいんだよ」


 この前と似た台詞だった。それでもやっぱり、言うことができない。

 それが悔しくあり、哀しみも混じっていく。ぼくは下にうつむいた。

 ……抱きしめられた。

 顔を上げておどろくと、兄がぼくを抱いていた。兄さんは黙ったまま、目を半分伏せていた。そこまでぼくのことを想ってくれていたのか……。

 少し気持ちわるく思うけれど、静かな安らぎにも似た感情のなかに、ぼくはゆっくりと沈んでいった。



 兄との散歩で「表と裏がある」と言われ、家で手がかりを捜索した。捜索の結果、わずかだがヒントが見つかった。兄が言い過ぎたとの謝罪とともに、ぼくを介抱してくれた。自力でわかりそうなことはあるけれど、優兄ゆうにいの力も借りたい。兄さんにどこまで頼ればいいのだろう。

 ゆきとぼくの性格は、あまり変わらないようだ。けれども、何か裏がありそう。より「ゆき」の根元にさかのぼろうと思う。

 もう考えている暇はない。いまは勉強に集中しよう。ぼくは止まっていたペンを再び動かし始めた。


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