7話 気になる妹像(加筆)

 お昼すぎ、兄さんが話しかけてきた。「美術館に行かないか」とのことだった。なぜか兄は少し照れた顔をしていた。行きたいけれど、受験生だからと申しわけなく断ると、「散歩はどうかな?」と振られた。ぼくは頷いた。


 半ズボンとTシャツで行こうと思った。ラフすぎるかなと思った。まあ、選びながら考えよう。ショートパンツとハーフパンツがあったが、ホットパンツはないようだ。丈の長さを理由に、ハーフパンツを採用する。

 アウターにカーディガンとパーカーで悩むけれど、体を動かすことを考えて、パーカーの方がいいかもしれない。

 薄手のパーカーは3枚あり、ピンクと水色と灰色があった。初めからピンク選べる勇気はない。灰色は無難だけど、水色に魅かれた。スポーティに見えるし、これがいいのかもと思った。

 水色のパーカーと、薄緑色のハーフパンツ。どっちも淡い色をしていて、主張が強すぎない。まるで「目立たないこと」を信条モットーにしているかのよう。ともかく自分の目からすると、無難じゃないかなと思った。


 洗面台の鏡に映して見た。どこにでもいそうな女の子だった。やはりラフかもしれないが、近所の散歩かなんかだろうとは思う。


 兄にも格好を見せた。


「散歩に行くから気にしなくていい」


 兄は面倒くさそうだが、慮る様子だった。


「散歩とはいっても、人目を気にするよ」


 ぼくは" 妹の服装 " と付け加えそうだった。けれども不自然であるし、意味が分かりづらくなる。だから言葉をみこんだ。


「考えすぎずに。俺は自然だと思うよ」

 ちゃんと目をこっちに向けていて不審な様子はない。嘘を言ってはいなさそう。


「そうなんだ。じゃあ、これにするよ」

 

 公園までは歩いて15分程度だ。それだけでも軽い運動にはなる。


「ひさしぶりだな、ゆきと歩くなんて」

 いやそんなことないでしょ。と思いきや、確かにそうだった。兄が大学に進学してから、勉強、サークルやアルバイトで忙しくなり、妹(弟)と行動することが減っている。来年になると、兄の就職活動と卒業単位の追い込みがあり、さらに忙しくなる。

 ブラコンと言われそうだけど、兄との時間が減ることが寂しく思う。

 既視感があるな。ソウ君との会話を思い出した。それでもぼくは、異を唱える。


「自宅通いなだけ、家族と接する時間があるからまだいいでしょ」

「そうだな。社会人として、独立するまでお世話になるよ」


 優兄はさわやかな笑みを見せた。

 ぼくも柔らかな笑顔で返した。

 時間には限りがある。家族という形態は変わらないが、距離感は変わるものだから。

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