1章 戸惑い、そして安堵

1. ソウ君とカフェへ(土曜・放課後)

1話 放課後にカフェへ

 ベッドのかけ布団の中に入った。今日、いろいろあったなと思う。

 ぼくが女の子になった理由は、よくわからない。けれども、兄との話の感じたことがある。周りの人たちに助けられている実感だ。


 朝、目が覚めた。カーテンから射し込む光を見る限りは、今日も晴れている。

 なんとなく体に違和感が残っている。起き上がる。胸の膨らみを見て、昨日と同じ状態だったことがわかり、軽くため息をつく。

 きのうはとりあえず、ゆきとして動くしかなかった。でも性別が変わったことは、他の人は知らないし、高校生なのには変わりなかった。

 いつ戻れるのかは不安がある。風邪が治るときのように、忘れたころに元通りなのか、一過性のことなのか?



 今日の学校から帰宅した後の話だ。ぼくとソウ君は、カフェに行くことになった。

 それを父に報告する。母は仕事のため、家を留守にしている。むしろ母は職業上の都合で、土・日の方が忙しく、いない時は珍しくない。


「そうか。日暮君とだね。久しぶりなんじゃないかな。受験勉強が本格的になったら、こういう機会は減っていくだろうから、楽しんでいきなさい」


 ……まるで、ボーイフレンドとの待ち合わせみたいな言い方?!

 父は微笑ましいじゃないか、という言い方。目元と口元がやさしいが、今のぼくにはその笑顔が痛い。


「ちょっとカフェで飲んで、お喋りするなのだけど」


 少し動揺しながら父にそう呟いて反論する。なぜか、自分の頬がほんのり熱いような。


「そういうささやかな楽しみでも、大事だと思うよ。少しくらい楽しんでも、ばちは当たらないよ」


 父さんは苦笑いしながら言った。そこまで言うのなら、そういうものなのかな。


「じゃあ、着替えたら出かけにいくよ」

「出る時は声をかけるように」

「はい」

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