4話 信頼 優一②
帰宅後、夕食の後、歯磨きをして授業の復習や予習に取り組んだ。それらの後は、お風呂を挟み、部屋に戻ったのが午後9時半過ぎだった。
ぼくは、ベッドの端に座っていた。いろいろと未知の体験だったから、すっかり疲れ切っていた。
コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
「入ってもいいかな」
声の主は兄の優一だ。何の用だろうか。
「いいよ」
ぼくが入室の許可をすると、兄は扉を開けて、ゆっくり近づいてきた。
「座って」
兄をベッドに座るように勧めた。兄は「うん」と言って座る。ぼくも机の椅子から降りて、隣に座った。
「友紀、いつもと雰囲気が違くない?」
兄の口調は穏やかだった。訝しがるようだけれど、その奥には心配するような眼差しがあった。
「心配事があるんだろ? だったら、俺に相談してくれないか?」
兄がぼくの様子がおかしいことに気づいてくれたようだった。
「そうだよ。けど、兄さんにも言えない……」
兄の表情を見ながら話した。が、情けない印象を与えたかもしれなかった。兄は、「そっか。まあ、誰しも言えないことはあるよな」と言った後、
「俺はお前じゃないから、どうすることもできない。だけど俺にできることなら協力するよ」
と語を継いだ。
兄が語る言葉は、口調こそ穏やかだけど、静かさの中に力強さがこもっていた。
「わたしは……何が何だか分からない」
これが今のぼくの正直な感情の発露だ。小声だったが、語気は強かったと思う。
「だいじょうぶ。俺だけじゃないよ。母さんや父さんがいる」
事あるごとに語りかけてくる兄だけれど、こういう時話してくれるのはうれしかった。少し間を置いてから返答する。
「悩んでて情けなくなるな」
「お互い様。助けて、助けられるのだから気にするな」
そうなのか…。
兄の言葉はありきたりだけれど、今のぼくには十分だった。
「ありがとう」
「いいんだよ。じゃ、お休み。明日も学校あるんだよね?」
「分かっているよ。兄さん、お休み」
兄は部屋を後にした。軽く会話をしただけだった。
けど、何とも言えない安堵感が、胸中に広がっていた。
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