1.里奈の成長記録

「さとしくん、おとこの子もおんなの子もおんなじきいろのカバーなんやね」


 このときの里奈はまだ可愛かった。

 同じ小学校に上がったとき、一年生用のランドセルカバーが同じことを嬉しそうに言ってくれた。本当はランドセルの色も里奈と揃えたかったが、二人の親に反対されさすがにそこまでは出来なかった。

 しかし、それは他の一年生も同じだということをすぐに知ると、何だか納得がいかなくなった。



「さとしくん、それ里奈のしゅくだい。じぶんのはじぶんでちゃんとやりやー」

「だいじょうぶや! 里奈の字うつしとるだけやから」

「それ、そのままうつしとるだけやんか」


 小学三年生になると、だんだん里奈が俺に文句をぶつけるようになった。

 ただ俺は、里奈と同じ文字を書きたくて、里奈の漢字ドリルを写してただけなのだが、里奈には納得がいかなかったらしい。

 その様子に俺も納得がいかなかったのを覚えている。



「聡くん、私の絵、まねせんといてよ」

「しゃーないやろ、俺と里奈は考えることが同じなんやから、絵も同じになるわ」

「それ、ただのパクリやで」


 小学五年生になると、里奈は俺から色んなものを隠し始めた。

 図画工作で作っている木箱も夏休みの自由研究も冬休みの書き初めも。

 だが、俺は里奈と同じものを作りたくて、里奈の部屋を探しては、里奈が隠したものをすべて見つけ出していた。

 その度に里奈が文句を言っていたが、俺と里奈は同じだから仕方ないというものだ。



「ちょっと聡、それ私のブラ! 返して!」

「いやや。何で返さなあかんねん。お前のもんは俺のもんや」

「何それ、変態! おばさんに言いつけたるで!」

「うわっ卑怯や!」


 中学生にもなると、俺より先に里奈の身長が伸びて胸も膨らむようになって、一方俺は声が掠れたり身体に筋肉が付くようになって、だんだんおそろいじゃないところが増えていった。

 性別が違うから仕方がないとはいえ、里奈と変わっていくのが嫌で、俺は次第に里奈のものを自分のものだと主張するようになった。俺と同じものを持たせて、同じ部活に入らせて、昼食も下校も家にいるときも、俺は里奈と同じ時間を過ごした。



 それだけで俺は満たされたし、里奈も同じだと思っていた。

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