第15話 大戦勃発

さらに雨は強くなってきた…。

この世界は一体どうなってやがるんだ?

なんでSorrys!の哲平とセージが揃ってやってきた?

ここら辺は奴らの行動圏内ではないはずだろ?

なんか俺がSorrys!のライブで状況説明をしてしまったせいで、呼ばれたと勘違いして出てきちゃった召還精霊とか魔獣とか、そういう系のオマージュ的なあれか、あれのドッキリ的なあれか?そうなのか?

うぅ~ん?


銀のすずを使う間を与えないほどのスピードで、彼らは俺にメダパニをかけた。

それってチートすぎじゃね?

落ち着けっ俺っ!


ハセキョンと、その旦那さんでギタリストのはるちっち氏の登場。

もうその時点でかつてないくらいに俺のギター向上心が奮起される異常展開だったはずだ!

なのに!

なんでお前らまでくる!

このド新米度肝抜きが…… やり方ってのがあるだろう。

こいつら、素人に違いない。


哲平とセージ二人の登場はまるで、謎の召還獣がよく”名刺代わりに”といわんばかりに、いきなり現れた途端にデカい岩をブン投げて、主人公率いるパーティをいきなり全滅させかねないほどの脅威を見せるあの展開に酷似していた。

せっかく先ほどまでララァが作り出してくれてた心地よい素敵オーラ空間は簡単に動揺し、波が立っている。

素敵さとは、かくもデリケートなものなのだ。


それにしても、なんつーナチュラルにして甚大な破壊力だ……。

奴らになんの悪気もないのは分かっているが、ピンポイントでタイミングと存在意義がバッティングする事がこんなにも恐ろしいとは…。

もうなんていうか、これは、お互いが持っている人としての何かが、壮絶に違い過ぎている。

誰も望んでいなかったはずだが、今まさにこのスタバで素敵オーラ使いと破壊系召還魔獣による魔法大戦が始まろうとしていた。


哲平が、上着についた水滴を豪快にバッタバッタと払いながら注文を始める。


「ふひぃゅーい。いやー、マジフぁックだな!この雨は!えーと、俺は…、カフェラテね!」

「うーん、じゃぁ俺はぁ…ウーロン茶」

(ありませんと断られている。)


どうやら二人は、俺がいることに気がついていない。

もちろん、はるちっち夫妻にも気がついていない。

店内は明らかに妙な雰囲気になりつつある。

ってか、こんなに英語圏の人がいる飲食店でフ●ックとか言うなよ。

マジで怒られんぞ。


「つーか……俺は二人に声をかけるべきなのか?」


同じSorrys!のメンバーだって言うのに、そこから思案しなければならないレベルだ。

か、かけるとしたらなんてかけるんだ?

いや、迷っている場合じゃない!

今すぐにでも立ち上がって、早々に哲平とセージを外に連れ出さなければ、声をかけるタイミングは失われるだろう。

そして、俺には分かっていた。

哲平は、そのむやみやたらに鋭い嗅覚で、確実にあの夫婦の隣に陣取るであろう事が。

そうなってからではもう遅い。

その時このスタバはゲキ空間と化すだろう。

(※ゲキ空間とは俺がさっき考えたのだが、劇的な激烈な空間の事。)

いざ魔法戦闘が始まってからでは、俺が超魔召還獣サイドの人間だって事や、召還しちゃった本人かもしれないなんて事をカミングアウトするのが難しくなる。

さっきからずっとここに座って素敵オーラ空間を満喫していた一人として、……いや人間として色々無理だ。

っていうか、俺はギタリストのなんたるかをここで優雅に勉強したかったってのに!!

そんな愚痴をこぼしてる時ではない。

時間がない!早く行かなければ!

俺に、俺に勇気をくれ!叉市!!


その時叉市の声が自動再生された。


『ソクラテスの時代は終わろうとしてるんだ』 


……。


「うぅ~ん?いまそれぇ~?」


いや、そうじゃなくってさ、ソクラテスさんとかの事じゃなくってさ~。もっと良いアドバイス あんでしょ?


しかし、まるでその脳内再生を合図にでもしたかのように哲平は動いた。

哲平はカフェラテの紙カップを両手で持ち、ふーふーしながら前も見ずにとことこ歩き、ハセキョンの隣にドカっと座り、ドリンク受け取り口にいるセージを手招きしている。

やはり……か。

当ったり前のようにやっぱりあの席を選びやがった。

ん?まてよ?

ってことは。

Sorrys!の二人も俺の目の前じゃないか!


「見っかんねえだろうなぁ……。」


俺は今の今まで今日一日、わりと普通に行動していたつもりだったが、ここに来ていよいよ追い詰められる状況になった。


「おいおい!こっちだぞセージ!こっちこっちー!」

「おぉ~。はいはいはい。おまたせぇ~。」


哲平がセージを呼ぼうと手をブンブンと振り回す。

セージは哲平のそのデカ過ぎるリアクションに辛うじて気が付き、ちょっと遅れてきた彼女みたいに「おまたせぇ~」なんていってしまう有様だった。

っていうか、仲いいなぁ~おい。

二人ははるちっち夫妻の存在に気がつかないまま、その真隣で自分の家にでも居るかのような振る舞いを続ける。

そう、望まれない戦いが始まった。


店内にいるほぼ全てのお客さん達が戦況を見守っている状態だ。

くっ!こりゃとんでもない惨劇が起きるぞ。

哲平が脱いだ上着を雑巾みたいに絞りながら、セージに向かってしゃべりだした。

っていうかここで絞るなよ……。


「あー!これはマジでフぁックだ!最高にフぁックだ!」

「いやいや。だから傘を持って行ったほうがいいって言ったじゃん。」

「そんな常識に縛られても仕方ないだろ!雨が弱い時は勝負に出る!」

「しょうぶって……。」

「にしても驚いたよな?な、まさか強硬だったプーチンがあんなにあっさりアメリカと核でがっちり協力するなんてな!」

「え、なに急に何の話?」

「ふぅぁっくぁあーっ。このカフェオレうめ~。これでもう最高だわ。すでに俺最高だわ。」

「ふーん。良かったじゃん。」

「お前はそうやっていつまでも紅いだけの茶みたいのを飲んでりゃいいんだよ。このイモめ!」

「はいはい。」

「あ、やばいっ!屁が出るっ!」


ブフッ

……。


彼はこいた。

あんなに美しいヒトの真横で。

哲平殿は屁をば、こかれたのでした。


もしかすると、はるちっちとハセキョンは屁の事を気にしていない天使かもしれない、という希望的観測を試みたが、夫妻の会話が持っていたグルーヴが完全に乱れている。

哲平の放屁は、夫妻が生み出した素敵空間を無慈悲に蹂躙したのだ。


「ちょっとーこかないでよー(笑」

「がははははっ、はーっはははは(笑」


そして、悪いことに屁をこいたことで二人だけが最高に楽しくなっている!

おい!なんなんだこいつら!

(笑 っじゃねーよ!


その時には、すでに二人が店内の雰囲気を完全に掌握していた。

素敵オーラ空間は急激に縮小し、もはや宇宙の膨張説すらも否定しかねない勢いだった。


おい、哲平、セージ。

なあ、お前達は確かに素敵オーラ使いに勝ったのかもしれない。

しかしそれは力による上からの支配でしかない。

強権的独裁オーラ(っていうかガス)だ。


俺は二人に、あの宮マス坂でのライブを思い出して欲しかった。

あの時のお前らは、皆が行きたい方向にギリギリの状況下で導いてくれたじゃんかよ。

あの時のお前らはカッコ良かったよ!

哲平、セージ、思い出してくれ!

俺はゼッッッタイに自分がここにいる事が知られたくなかったので、心の中でカッコよく呼びかけた。


しかし、そんな召還獣達は、自分のオーラの方向性なんか全然気にしないのだ。

それどころか、さっき店員さんから受け取ったタオルでお互いの背中を拭きあいっこする始末である。

ここは銭湯じゃねーぞ!スタバだぞ!


もはやその勢いは誰にも止められず、そのままのテンションであーだこーだと10分くらい超絶無敵改造大魔獣二匹のビッグショーが繰り広げられた。


彼らが騒ぐのに飽きてきて黙ったその時、ちょうど雨が上がったようだった。

雲の切れ間に陽が射して、カフェの中や辺りを急に明るく照らした。

恐らくさっきの一時的な強い雨はゲリラ豪雨だったのだろう。


はるちっち夫妻は黙って席を立った。

その表情は、こんなに店内が明るく照らされているのに、よく見えなかった。なぜだろうねぇ。

そして彼らは食器を戻しさっさと店を後にした。

カフェにいる人々の意識は、名残惜しそうに彼らを見送ったように思えた。

その二人の退場と共に、素敵オーラ空間は幕を閉じた。


夫婦が店を出て行くのをそれとなく見送った哲平は、ここで驚くべきことを言い出す。


「おい。さっきの、あれじゃね、ヱヴィちゃんじゃね?いや、絶対ヱヴィちゃんだ!俺の目に狂いはない。」 

(ま、、間違えやがった!!!)

「へぇー。そうだった?俺は気がつかなかったな。」

(違う)

「いや、絶対そうだ。間違いない。しかも一緒にいたのはあれだ。旦那のヰノレマリ。ラッパーの人!」

(違う、どんどん違ってる)

「へー、ヱヴィちゃんって結婚してたんだ。」

(そこじゃない!ってかお前も気づけ!)

「オメェはそんな事もしらねぇのか。全くもって世間知らずだな~!」

(ヱヴィちゃんについては合ってるが今は関係ないぞ!)

「いやいや。別にそんなことはないよ。お、雨も止んだみたいだねぇ。」

(今気づいてんじゃないよ)

「お!マジか!あー、マジでフぁックだったな!雨!フぁッキンレインだな!」

(晴れたのにフ●ックフ●ック言うな)

「まぁまぁ、晴れて良かったじゃん。」

「よし。じゃさっさと飲んで行くぞ!」


二人は一気に飲み干すと、すぐに出て行った。

素敵オーラ空間をゲキ空間に変え、自分達もまた元来た精霊世界に帰っていった。

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