第10話 ベータ
今さっき交番に入ってきた男が、俺に馴れ馴れしく話しかけてきた。
しかし聞き覚えのある声だ。
振り向くと、そいつはなんとさっきまで電柱の陰でコソコソして居た男、アークだった!
やっぱり何かの事件だったのか!?
ってか、もしかしてあまりの怪しさに補導されたのか?
様々な思惑が錯綜し、俺は何を話すべきか一瞬戸惑ってしまった。
…とりあえず冷静な感じで喋っておくことにした。
「おうおう。アークじゃないか。どうしたこんな時間にこんなところで?」
本当は駅前での怪しい行動について聞きたかったのだが、そのせいでここに連れてこられた可能性もあるので聞かないことにした。
「いや!それはこっちのセリフだろ?」
いやいやいや。こっちのセリフだぞ……。
一体なんで隠れてたんだよ?
ついには交番にまで来てるわけだし。
お前は怪しすぎるぞ。
俺があれこれ考えていると、アークを連れてきた若い警察官とエラそうなおっさんが何か話している。
内容はちゃんと聞き取れなかったが、「防犯登録がまだ」とか「遺失物届け」がどうたらと聞こえてきた。
なるほど。
見えてきた。
おそらくアークは、自転車の防犯登録をしてなかったせいでここまで連れてこられてきたんだ。
きっとそうだ。そうだわこれ。
「おいおいアーク。防犯登録はしなきゃダメだろ?」
「いや、まぁそうなんだけどね。
今まで不都合がなかったから完全に忘れてたよ。
で、セージは何してるんだよ?」
「俺は、まぁ、色々あるんだよ。」
「なんだよ、教えないのかよ。ずるいなぁ?。」
ずるいっていうか…。
だって、「財布を届けにきた」ってなんかヤラシイじゃん。
普通すぎるし、もっとミステリアスな理由で交番に来たいわけだよ。俺は。
そう。アーク……君のようにな。
いやぁ、しかし……解せない。
自転車の防犯登録とアークが電柱の陰に潜む事に、なんの関係もないはずだろ?
俺、なんか間違ったこと言ってるかな?
ゲームのやりすぎかな?
俺は余計な事を考えながら、自分の用紙の必要事項を記入し終えた。
電柱の一件はかなーり気になるのだが、ここでその話題を振って妙な展開に発展して、妙な事件の犯人扱いされて現行犯逮捕!
なんてことになっても困るので、あえて触れないままにした。
気づけば時間も遅くなったので、適当に一声かけて帰ることにした。
「じゃ、アーク。色々と気をつけるんだぞ。じゃーねぇ。」
「お、おう。それじゃおやすみー。」
交番から出ると、随分と駅前は静かになっていた。
まるで、タイムリープでもして一気に時間が進んだかのようだった。
実際には10分程度の出来事だったが、交番に随分と長く居たような気もした。
慌ただしく、荒々しく、分刻みで動き続ける街、東京。
これからこの街は眠りにつくんだろうと、ちょっとおセンチな気持ちになりながら俺は我がアパートを目指して歩き出した。
……それにしても謎だ。マジで謎だ。
まさに謎が謎を呼ぶとはこのことだな……。
俺は自分でも気がつかないうちに、空を見上げぽつりと呟いていた。
「なんか、とんでもないギタリストが入ってきたなぁ。」
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