第9話 ベータ

しばらくすると、K堂駅が見えてきた。

駅の周りはまだまだ明かりが多い。

改札のすぐ横に、目的の交番がある。

俺が交番の中に入ると、デカくて見るからにエラソーなおっさんが椅子に座って口元をへの字にしていた。

俺はなんとなーく声をかけるのが億劫になったが、早いところ財布を渡して家に帰ろうと思った。


「あのー。」


「うん?なに?」


このおっさん、どこからどう見てもエラそーだ。

腕を組んで、威圧的な態度をとっている。


「財布が落ちてたんで、届けにきたんですけど。」


「あぁ。そういうことね。じゃここで預かっておくから。どこに落ちてたの?」


「G徳寺の駅前です。」


「ああ。あそこね。じゃ、ちょっと待ってて。」


エラそうなおっさんは、一旦奥に姿を消し、またすぐに出てきた。

そして、手に持った用紙を机の上に置くと、エラそうに話し出した。


「じゃ、こことここ。書いといてね。電話番号は書かなくてもいいけど。

もしかしたらお礼の電話とかくるかもしれないからね。」


すぐに帰りたかったが、おっさんに逆らえるわけもなく、言われた場所に淡々と記入していく。

俺がちょうど電話番号を書こうとした時、彼は


「ま。お礼の電話なんて滅多にこないけどね。」


とボヤいた。

いちいちイライラさせてくるおっさんである。

今日も俺の”ディやぁっ!”が炸裂することが確定した、その時だった。


「……どうぞ。中に入って。」


ガラガラっ。


誰かが交番の中に入ってきた。

そして俺の隣にあるパイプ椅子に座った。

交番の中ってのは結構狭い。

突然人口密度が上がったのでなんとなく居づらくなった俺は、脇目も振らず急いでペンを走らした。

俺は良い事をしているはずだ。

でも、なんだかこの状況を誰かに見られていると思うと、変な後ろめたさを感じてしまう。


更にペンの速度は加速する。

そろそろ書き終わろうとした時だった。


「おいおい!セージじゃん!何してんの!?」

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