第8話 ベータ

財布を、交番に、届ける。

なんて模範的な日本国民なんだ俺はっ!

さわやかB組の生徒も間違いなくそうするだろう。

つまりは、太陽の光が俺の肩に降り注ぐってことだよ。

……何?意味わかんないって?んなわけないだろ?

まぁとにかく、食後の散歩にもなるし、なにより今は気分転換したかった。

あれだけ魔導士ゲスと何回も勝負して一度も勝てなかったんだから、さすがの俺だって疲れてるってわけだ。


小田Q線の高架下を進んでいく。

あたりは静まり返り、心が落ち着いてくる。

俺は再び、これまでのことを思い出していた。

俺にとってSorrys!とはどんな存在だったか。

これまで人生においていろんなことがあったが、その中でもSorrys!での経験がどれだけ濃密であったかは言うまでもない。

それくらい俺にとって重要なSorrys!は、ある日突然、活動を休止した。

ボーカルがいなくなったのだ。

叉市つくるが、「すぐに帰る」とだけ言い残して姿を消したのだ。


あっという間に月日は流れた。

俺はその間も、常にSorrys!の事を考えながら過ごしていた。

しかし、実際には活動できない状況だったから、別のことをしておかなくてはいけないと思った。

ただ放心状態になって、時間を無駄にしている場合ではなかったのだ。

未来に向けて、何か動き出さないといけない!と。


だから、俺は漫画を読み漁った。

もともと漫画は嫌いではない。

しかし今までの人生で、これほどまでに時間に空きができたことはなかった。

俺は物心ついた時から、バスケットボール一筋だった。

最高にバスケが楽しくて仕方がなかったので、近所の公園でひたすらに練習していた。

JMの大ファンだった俺は、NBAの選手になるのが夢だった。

そんな俺がバスケ引退を決意したと同時くらいに、俺はいつの間にかSorrys!に加入していた。

当時は右も左も分からないままに、毎日を必死でSorrys!に注ぎ込んでいた。

俺が粘ることができたのはきっと、Sorrys!とバスケがどこか似ていたからだと思う。


そんなこんなで、これまでは勢いよく漫画を読むことがあまりなかった。

まず俺が手にしたのは、もちろんあの名作スラムダッシュだ。

読んだことはあるのだが、もう一度読みたい気分だった。

どうせなら全部買って、一気に読んでしまおうと思った。

大人買いってやつだ。

俺は古本屋やらブックオンやらに通って、全巻を揃えようと試みた。

しかし宇宙の法則とは往々にして、人類へ無情に牙を向けるものだ。

物語の良いところ、ちょうど欲しいところが見つからない!

あれって一体何なんだろうね。

俺はインターハイをかけた海湾戦のラストの部分をどうしても手に入れられずに、かなりの時間を過ごしていた。

試合の結果とか展開とかは知ってるけど、どうしても読みたいんだ!

このまま次の陵北戦に進むわけにはいかないんだ!


俺は来る日も来る日もスラムダッシュを探し続けた。

そのフラストレーションを発散するために、Fファイトのハーガで”デぃやぁっ!”していた事は容易に想像できる事だろう。

もはや島と大地の怒りである。

ようやく全巻を揃えた時は、いろんな意味で涙腺が崩壊した。

最後の試合の完成度の高さは神がかってるね。

ラストショットの時の審判のジェスチャーは、よく真似したもんだ。


それからすっかり漫画に魅せられた俺は、次にAKiRAを全巻入手。

その繊細かつ豪快なパースだったり何だったりに魅せられて、すっかりハマってしまった。

読んでる最中に自然と「どぅがぁっ!」って打撃音を朗読したのは初めてだった。

大きな力を手に入れるって、いろんな覚悟が必要なんだなぁ…?

もし俺があれほどの超能力を手に入れたら、農業とか油田の掘削とかを楽にやろうとしてたかもなぁ。

ちなみに映画版は前から見ていたので、原作との違いも楽しむことができて大満足だった。

さらになう鹿。この世界観の完成度。もはや神がかってるね。


おっと。

危うく漫画の話で突っ走るところだった。

いけない、いけない。


そんなこんなで俺は今の今まで、誰に頼まれたわけでもなく、ひたすら漫画を読んでいたわけだ。

先に言っておくけど、別に漫画ばっかり読んでたわけじゃないよ。

他にも色々してたからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る