世紀末異世界チーレム伝説 北斗な件

結城藍人

第1話 世紀末勇者あらわる

聖暦199X年、世界は魔王の恐怖に包まれた!

王国が潰え、教会は絶え、すべてが魔物の支配下となったように見えた。

しかし、人類は滅びてはいなかった!!


 荒野をひたすら激走する馬車。それを魔物の群が追いかけている。二つの角を持つ馬の魔物、バイコーン。それにまたがるのは粗末な革鎧を着込み、槍をかかえたゴブリンだ。胸の一部しか隠していないようなボロボロの革鎧には鋲が打たれ、その頭は頭頂部のみ剃り残した髪が逆立っている。いわゆるモヒカン刈りというやつだ。


 馬車の走る速度は、だんだん落ちていく。馬の疲労が限界に近いようだ。とうとう、一頭のバイコーンが馬車を追い抜いた。


「ヒャッハー!」


 それに騎乗していたゴブリンが奇声を上げると同時に、その手から槍が放たれ、馬車を引いている馬の脇腹に突き刺さる!


 ヒヒーン!!


 鳴き声を上げて、馬が転倒した。それに引きずられて、馬車も転倒する。操っていたマント姿の馭者が地面に投げ出され、幌の付いた荷台から積み荷の箱がひとつこぼれ落ちる。その箱は地面に落ちると同時に砕け、中から陽光を鮮やかに反射する黄金色の小さな円盤があふれ出した。


「はあ? こいつ、こんな物もってやがったぜ。今じゃあ漬け物石の代わりにもなりゃしねえってのによ!」


 槍を投げたゴブリンがあざけるように叫んだ。


 ……漬け物、あるんだ。


 そんな場違いな感想を抱いてしまったのは、状況についていけなかったから。


 俺、異世界転移トリップしたんだよな? いやまあ、アレはゴブリンだそうだから、確かに異世界なんだろうとは思う。


 チート能力も、確かにあるみたいだ。あのゴブリンが言ってることがわかるってことは、いわゆる『異世界言語理解』スキルがあるってことだし、そもそもゴブリンだってわかるのは『鑑定』スキルのおかげだろう。


 それに、ゴブリンに襲われる馬車。定番だよね。チート能力持った転移者トリッパーが襲われてる人間を助けて、ってスタート。ありふれすぎてるかな。


 ……ゴブリンがモヒカンでヒャッハーとか言ってなきゃね。


 ルックスや言動が、どう見ても世紀末です。本当にありがとうございました。


 ……いやいやいや、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ! ここは襲われてる人を助けないと!!


 っても、どうしよう。俺、まだ自分のチート能力、把握してないんだけど?


 投げ出された馭者のほかに、倒れた馬車からもマントを被った人間が二人、這い出してきた。それぞれ剣を抜いて、馭者をかばうように魔物の群に対する。この二人は大きな怪我はしていないらしい。


 人間が三人なのに対して、ゴブリンたちは十二~三匹はいそうだ。全員がバイコーンに乗っている。倒れた馬車の周りをバイコーンに乗ったままグルグルと回って奇声を上げている。


 そのうちの一匹、槍を投げたやつがバイコーンから降りると、馬の脇腹に刺さっていた自分の槍を抜いてから、倒れた馬車の方に向かっていく。地面にこぼれた金貨には見向きもせず、馬車の荷台を漁り始めた。そして……


「ヒャアッホーウ!! おい、もみが有ったぜ! こいつは金貨なんぞより、よっぽどお宝だァ!!」


 そう叫んだのに対して、ひときわ大きいバイコーンに乗り、体格も立派なゴブリン……いや、こいつはホブゴブリンらしい……が満足そうにうなずいて答える。


「お~、そいつァいい。魔王様もお喜びになることだろう」


「や、やめろっ!! それはオレたちの村の最後の希望なんだ! お前らなんかに渡せるもんかっ!!」


 地面に倒れていた馭者が可愛らしい声で叫ぶ。おや、頭からかぶってるマントのせいで顔や体格はよくわからないけど、声からすると若い女の子らしい。この子も大きな怪我はしていないようだ。


 おー、いいじゃないの! これも定番だよ、転移トリップして早々にピンチのヒロインを助けるってのはさ。オッケー、彼女が俺のハーレムの第一号ってワケだな。


 何しろ、神様のお墨付きなんだからな、俺が『異世界行ってチーレムでヒャッハー』できるってのは。神様のミスでトラック事故に巻き込まれて死んだお詫びに、若い肉体とチート能力をくれるって、確かに保証されたんだ。


 なら、ここは押せ、だ。チート能力が発動して、奴らをぶっ倒せるに違いない。


「やめろっ!」


 俺は、一部始終を見ていた小高い丘の上からゴブリンどもに声をかけた。


「何だテメェは!?」


「お前たちに名乗る名前は無いっ!」


 そう叫ぶと、ゴブリンたち目がけて走り出す。うん、体が軽い。肉体も、単に若返るだけじゃなくて、前世とは段違いに強化されてるみたいだ。こうなると、転移トリップというよりは、成人転生という方が適切かもしれない。


「ざけんじゃねェ!!」


 一番近くにいたゴブリンが、バイコーンに乗ったまま俺目がけて突っ込んでくる。凄い迫力だ。


 でも、俺は焦りも心配もしなかった。俺の中のチート能力が目覚めたのを感じていたから。


 俺は立ち止まると、右手の人差し指を一本だけ立てると、拳銃で狙う真似をするようにしてゴブリンを指さした。


「吹っ飛べっ!」


 俺が叫んだ瞬間……


 ピブー!


 変な電子音っぽい音が鳴り響いたかと思うと、次の瞬間、俺が指さしたゴブリンがバイコーンごと粉々にはじけ飛んでいた。


「うげ……」


 自分でやったことなのに、思わず吐きそうになった。この肉体は、この世界に現れたばかりなので胃の中には何も無かったから気持ち悪くなっただけだけど、何か食べていたら吐いたかもしれない。それだけ、グロい光景だった。


「な、何だ今のは!?」


「まさか爆裂魔法?」


「いや、そんな高度な魔法や魔道具は人類には残っていないはずだ!!」


 ゴブリンたちも驚いたらしく、俺が何をやったのか話し合うだけで、俺の方に向かってくるヤツは一匹もいない。


 クソっ、こいつらを倒すのは確定事項だ。だけど、さっきみたいな倒し方だと、俺の精神が保たない。何とか、グロくなく倒す方法はないのか?


 そんな風に考えていると、俺の中にさっきとは違う力が生まれたのを感じることができた。何だか少し変な感じだけど、これならグロくない方法で、相手をダウンさせることができるらしいと感じる。


 よし!


「お前もダウンだ!」


 俺はそう叫びながら、次に近いゴブリンを指さした。


 ピブー!


 さっきと同じ電子音が鳴り響き、狙われたゴブリンは右手を自分の顎に当て、そのままつまむように持った。そして、つまんだ指を前に引き出すようにしながら言った。


「だうーん」


 空気が凍った。


 ちょっと待て、これは某バカ殿様で有名なコメディアンの定番ギャグでないかい!?


 だが、次の瞬間、そのゴブリンはバイコーンから落ち、地面に倒れた。


「し、死んでいる!」


「ヤツは指先ひとつで相手を『だうーん』することができるのか!?」


「な、何て恐ろしいヤツだ!!」


 俺を見ながら、恐ろしげに叫ぶゴブリンたち。


 そ、それでいいのか!?


「お、おのれえ!」


 隊長格らしいホブゴブリンが叫びながらバイコーンを走らせて突っ込んできた。何か納得いかないけど、考えたら負けっぽいから、俺はとにかく目の前のホブゴブリンを倒すことに専念することにした。思考放棄ともいう。


 さっきとは違う力を体内に感じたので、それを込めながらホブゴブリンを指さす。


ピブー!


 三度電子音が鳴り響き、ホブゴブリンは突然バイコーンを止めると、大声で叫んだ。


「裸足のランナー、アベベッ!!」


 おい、異世界のホブゴブリンのくせに、なんでそんな人知ってるんだよ!?


 ……とツッコむ間もなく、ホブゴブリンは光になって粉々に爆散した。さっきみたいにグロく肉片をまき散らすのではなく、アニメの透過光みたいな感じで爆発したので、今度は気持ち悪いとは思わなかった。


「ああ、隊長まで!!」


「ヤバい、あいつは本物だ!」


「本物の勇者だ!!」


「に、逃げろッ!! いや違う、転進だ、転進! 魔王様にご報告するための転進をするんだッ!!」


 そう口々に叫ぶと、ゴブリンたちはバイコーンを駆って我先に逃げ出した。


 どうやら、俺は『勇者』にされちまったらしい。いや、実際、このチート能力からすると本当に勇者なのかもしれないが。


 すると、俺はあいつらのボスである『魔王様』とやらを倒さないといけないんだろうか?


 まあ、何をするにせよ、まずはこの世界の情報が必要だ。とりあえずは、馭者の女の子や他の二人に話を聞かせてもらおう。命を救ったんだ、粗略にはしないだろう。あわよくば、本当に俺のハーレムメンバーの第一号になってくれるかもしれないし。


 そう思いつつ、三人に声をかける。


「大丈夫かい?」


 すると、三人が次々に口を開いた。


「あ、ああ、助かったよ。アンタ、凄いんだね」


「ありがとうよ、本当に凄えよ」


「サンキューな。マジでアタイら死ぬかと思ってたんだぜ」


 おや、声からすると、何と三人とも女の子っぽいぞ。これは一気にハーレム形成できるかもな! ラッキー!!


 ……そんな風に思ったことが俺にもありました。


 いや、結果だけ言えば、本当にハーレムできちゃったんだよ。


「アタシはエリカ、アンタの恋人にしておくれよ」


「アタイはカオル、もうアタイはアンタのものさ」


「オレはチャコ、お前に惚れちまったぜ」


 みんな、俺に対して好感度MAX、取り合いもせずに、そのまま全員ハーレムメンバーになってくれるっていうんだ。


 それに、みんなテレビで活躍してる有名女性タレントの若い頃によく似てるんだぜ。そのタレントって、みんな元アスリート、いや、ひとりはまだ現役だったな。名前も、そのタレントそっくりなんだ。


 エリカがそっくりなのは、澤尻じゃないよ。本名が宍戸江利香ってタレントさんで、現役女子プロレスラーさ。


 カオルがそっくりな人の本名は松本香さん。この人は現役じゃなくて元女子プロレスラーのタレントさん。


 そして、馭者をやっていたチャコがそっくりな人の本名は、佐々木久子さん。これも元女子プロレスラーで、超人気のタレントさんだよ。


 ちなみに、それぞれのリングネーム=タレント名は、宍戸江利香さんが『アジャ・コング』、松本香さんが『ダンプ松本』、佐々木久子さんが『北斗晶』っていうんだけどね。みんな、この人たちの若い頃にそっくりで、コスチュームとかメイクとかも、それに近いんだ。


 さあ、これで君が今まさに読んでくれている俺の手記のタイトルの意味がわかっただろう?


「(俺のヒロインが)北斗(晶にそっくり)な件」ってことなのさ。

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