寿司の世界の片隅に

よみひと

第1話

「なーこの中で寿司ネタナンバーワン決めようや」

 そんなことを言い出したのは銀シャリくんだった。

「は、おまえ何言うてんねん!? 自分関係ないやろ!」

 銀シャリさんの急な思いつきに食って掛かるのは、最近僕らの職場にやってきた和牛さんだ。

「……まあまあ、落ち着くんご」

 興奮した彼らをなだめるのは、昔から職場のお品書きにその名を連ねる卵焼きのたまんごさん。

「みんな違ってみんないい。そう思わんご?」

 たまんごさんは情に厚い。

「調理済みのババアは黙ってるウニ!」

「んご!? そりゃあ私は一度焼かれた身だけれどんご……」

 たまんごさんからだし汁みたいな涙が流れた。

「今日こそウニらの一番を決めるウニ!」

 扇動的なウニ氏の問いかけに、各々が意志表示をする。

「……ふふっ、ナンバーワンを決めようじゃなイカ!」

「ちゃーん!」「おい磯野、野球行こうぜ」「俺、野球行くお!」

「フグ田くぅ~ん」「ぎょぎょっ!?」

 ……カオスである。この世界は見た目も味も個性的な奴らが多い。中でも日曜夕方を連想させる奴らの存在は群を抜いていて、僕は密かに長谷川一門と呼んでいる。ちなみにうちの職場にサザエさんはいない。

 ところで、寿司といえばあの赤身の彼女が何も言わないので気になった。だから僕は聞いてみる。

「マグロさん、みんな盛り上がってるけどいいの?」

「……(無反応)」

 まだ冷凍中みたい。

 そのすぐ側でエンガワさんは我関せずと華麗にスルーを決め込んでいる。結局、誰が寿司ネタナンバーワンかまとまらないのはいつものことだ。


 そして、人間さんが動き出す時間になる。

 人間さんの手に握られて彼らは一つになる。こんなにもカオス豊かな彼らをまとめ上げる人間さんはすごい。けど、僕は握ってもらえないから、ちょっと寂しい。

 

 ――さて、そろそろ僕も出かける時間。

 そっと片隅にお邪魔して、僕は寿司たちと一緒に人間さんの元へ配達される。


 僕はガリ。

 たまにでも食べてもらえたら、嬉しい。

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寿司の世界の片隅に よみひと @naname_yomi

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