難航捜索と友
「なぁ、カイン。マッドが一緒にいそうなヤツの心当たりはないか? 」
ここはサミタリアス国軍下層兵舎。低級兵士の宿舎だ。カインと呼ばれたつり目の青年も、下層兵士である。
「は?マッドぉ? 」
「おまえ、マッドと仲が良いだろ? 」
「やめてくれよ。アレと仲良しこよしだけはごめんだね」
毎回ガセネタを掴まされて、面倒この上ない相手。
(あのバカ、何やらかしたよ? )
「んで? そのバカマッドが何かやらかしたのか? 」
「上から回ってきただけで詳しくはわからないんだけどさ。何か、軍事機密に触れるようなことしたらしいぜ? 上官たちが躍起になって捜してるらしい」
グングニールを連れて逃走中、とは触れ回れないようだ。
「ふぅん……正直、マッドは好きじゃないから関わりたくないし、知り合いかなりいそうじゃね?」
あの性格なので、顔だけは広い。好かれている率はあまりに低い。
(ま、嫌いでもないんだけどさ。大方、マッドといそうなのはキールなんだろうけど、キールは好きだし)
「そうなんだよ。俺もあんまりアイツ好きじゃないし、出来れば巻き込まれたくない。でも、報酬がデカいらしいから悩む……」
(ついにお尋ね者にまで昇給しちまいやがったか。マッドで報酬貰ってもなぁ……)
「痩せ型の若い男なんて、一般人にゴロゴロいるだろうし……」
(国民の若い男の大半がそれじゃねぇか。マッドを匿えそうなのは、ガチでキールくらいなもんだけど……。仕方ねぇ、状況だけは聞いとくか。キールには世話になってるし、根元がキールなら根回ししてやんねぇとだな)
カインは兵士でありながら、あまり貢献には拘らない。やることもないから兵士になっただけなので、やりたいことを見つけたらいつでも辞める腹積もりである。そもそも、軍人向きではない。どちらかといえば、気ままに冒険者をしている方が性にあっている。ともすれば、国より友情を取る男だ。
(キール、影薄くてよかったな。俺が口割らなきゃ、バレないんじゃね? )
彼の頭の中で完全に的が絞られていた。マッドの性格を考えれば、擦り付け易い人材がキール以外思いつかない。マッドといると、貧乏クジを引かされる可哀想な友人といっていい。
「マッド?そう言えば、花街のマーサにご執心じゃなかったか? 」
別の男が会話に入ってくる。
(花街ぃ?アイツ、キールにツケるくらい金ないクセにあんなとこ出入りしてんのかよ……)
一斉に溜め息が漏れる。
「人気で順番待ちの花街一の売れっ子じゃねぇか。マッドなんかじゃ、あしらわれるだけだろ」
(そんな女のどこがいいんだか……)
「……マーサなら、アルス上官が直々に話を聞きにいっている」
筋肉肉だるまのような甲冑兵士が、背後から現れた。
「ジュート上官! お疲れ様です! 」
二人がビシッと挨拶をする中、カインはノロノロ立ち上がる。
「お疲れ様でーす」
……軽い。
「カイン、おまえはもう少し自覚を持て」
ギロッと睨まれた。当然である。
「うぃーす」
だが、軽かった。そして、今度はカインに向けて溜め息が放たれたのだった。
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