引き返せぬ運命の輪
キールは何を言われたか、理解出来ていなかった。突然のことに頭は当然、真っ白だ。
「……ごめん、よくわからないんだけど」
理解しろというには無理がある。
「そなたはただ、そなたが思うままに判断を下せばよい」
考えるな、感じろと言っているらしい。それこそ無茶な話である。
「待て待て待て! 俺の意思は?! 厄介事とかいらないから! 」
「何が厄介だというのだ。誉れであろう? 」
……これは果たして、会話になっているのだろうか。いや、人間にもいる。話を聞かない部類が。身近に居すぎて忘れそうになっていた。マッドも話を聞かない。勝手に進める部類だ。だから成長せず、情報もばらつきがある。
「そうかそうか……。思うままに判断を下していいのか。……じゃあ! 俺を解放してくれ! 俺は平和に暮らしたい! 」
「それは無理」
清々しい笑顔で返される。
「思うままに判断を下していいんじゃないのかよ?! 」
「そなたは我と共に歩まねばならぬ。従って、離れることはまかりならん」
どんな理屈だろうか。
「それにほれ、首を確認しろ」
言われるがままに、首に手をやる。
「……?! 首……輪?」
キールにそんな趣味はない。むしろ、趣味などない。あるならば、薬を調合することくらいで、あまりにも面白味に欠けた男である。
「我の選ばれし者にはそれが現れる」
「は、外し方は? 」
正直、こんなものをつけて歩きたくはない。
その問いに、更なる驚愕的な応えが返ってくる。
「……我は女神の化身。我が煩わしいならば五つの宝珠を集めよ。さすれば我は天に還らん」
哀しそうに瞳を伏せながら……。
そんな辛そうに言われたら、この男は悩む。情けなく悩む。ツケまくる悪友を切れない弱い男なのだから。
「あー、そのぉ……。ん?……女神の化身?」
女神と言えば、創造主と言われている存在が最もポピュラーである。神々についてはあまり興味が持たれないため、詳しい資料も何もない。そもそも創造主の名前すら、文献がない。いや、あっても一般市民は知るよしもない。
「女神の化身ぞ」
「女神の鉄槌・グングニール、女神の化身。……女神の一部が地上で具現化したってことか?」
「そういうことぞ」
つまりあれだ。人間離れした美貌、口調。人間社会に揉まれてないが故の、浮世離れした対応はすべて………って、無理矢理過ぎる。見た目はともかく、性格はいなくもない。と言うか、身近にいる。しかし、この首輪を出現させるのは人間技ではない。そんな魔法は聞いたことがない。知らないだけかもしれないが。
「……夢なら覚めてくれ」
「一発、鉄槌を食らうか? かなり加減をすれば気絶程度で済むぞ」
微調整も可能らしい。そういえば、城を壊滅って……そういうことではない。
「……なんなんだよ、そのピンポイント。軽いノリで使う代物じゃないだろ」
少女は首を傾げている。キールは頭を抱えた。
「……俺、帰るわ。きっと疲れてるんだ」
Uターンすると、案の定ついてくる。
「……知らない人についていくなって習わなかったか? 」
キールはまだ信じていなかった。
「知らぬ仲ではない。女神の鉄槌・グングニールと我に選ばれし者だ」
そして、少女にはそのことがわかっていない。明らかに噛み合っていないのだ。
「あのさ」
「なんだ?」
「俺、一人暮らしなんだよ。一人暮らしの男の家に来るって危険だと思わないのか? 」
少女は首を傾げている。キールは悟った、悟るしかなかった。彼女はとんでもなく、無知であると。
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