グングニールの噂
「おい、キール。グングニールの最新情報知りたくねぇ?」
「は?おまえ、またガセネタでツケ払おうとしてないか?」
軽装の男二人が世間話風に話しているが、話題は昔から脅威として語り継がれている女神の鉄槌・グングニール。この力を掌握している国は、世界の覇者として恐れられていた。だがそれがどんな形状をしているかさえ、明らかになってはいない。
「今回はガチモンよ!」
「どうだかなぁ……」
身の安全や保身のために、グングニールの情報を欲しがる者はあとをたたない。だからガセネタだろうが何だろうが、高値で取引される。大概がガセネタであることも否めないため、キールはあまり信用していない。
「聞いてから考える」
「まぁ、いいか。カナハタル国にグングニールがあったって話は知ってるか?」
「ん?あった?ある、じゃないのか?」
最強を誇る大国・カナハタル国。そこにグングニールがあるという話は間違いない。だが何故、情報が過去形なのか。
「……それが、まだ出回っちゃいない情報。お上には当然、誰かが報告してるだろうが、広まっちゃいないだろうよ。何せ……、昨晩の真夜中にカナハタル国で女神の鉄槌が舞い上がったんだから」
それが本当ならば、半日も経っていない新鮮な情報だ。
「ふぅん……」
けれどその情報が有益なのは、このサミタリアス国の上層部や兵職についている者くらい。一般市民には無関係。それくらい関心がないのだ。
「気にならねぇ?グングニールに選ばれし者であるはずのカナハタル国の城だけが壊滅した、なんて話」
ニヤリとキールに瞳だけ、意味ありげに向けた。
「……城だけねぇ。まるで……グングニールに意志があるみたいだな?マッド」
いつものことらしく、ため息をつく。
「そうそう!グングニールに意志があるとか、裏付け出来たら丸儲けできそうなんだけどなぁ」
「結局それだよな。人間か動物の姿じゃなきゃ、会話できないだろ。グングニールって言うくらいだから、槌か槍じゃないの?」
興味無さげに返す。
「うんうん、おまえと話してると情報探しが絞りやすいんだよ」
気にした風もなく、嬉しそうだ。
情報屋とは、フリーランスの不安定職だ。個人で活動しているのが大半である。だから荒い、とにかく荒い。先天的な情報収集能力を求められる。だが決め事もないため、不特定多数の情報屋が存在していた。
マッドにその実力があるかは謎である。
「悪いな、俺にはどうでもいい。そろそろ行くぜ。おまえと話してると遅くなる」
「今日もスライム狩りか?」
「誰かさんがツケまくるから、ノーリスクハイリターンな材料になるんだよ」
「薬師様、いつも助かってます!」
キールは庶民から下級兵士向けの薬を作る薬師をしている。麻痺や毒、痺れなどの回復剤をメインに低コストの安いものを提供していた。それなのに、このマッドはツケる。商売上がったりとはこのこと。だが昔からの腐れ縁のため、邪険にも出来ない。困った性分である。
「そう思ってるなら、ちゃんと払うもん払えよ」
聞いてないだろうことは分かっているので、さっさと立ち上がり、街を後にした。
(結局、いつともわからない出世払いとかいうんだろうし)
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