第3話

「…もう朝か」


 翌朝、天井を見上げて僕はそう言った。

 あの後は眠れなくて大変だった。地球では朝だったのにこっちの世界はもう夕方だったのだから。

 羊を数えてみたものの効果はあまり見込めず、眠れたかと思えば羊の群れに踏み潰されると言う悪夢まで見る始末。

 あくびをした後、呼び出しがあるまで眠ろうと枕にダイブしかけた瞬間、部屋の扉がノックされる、続いて聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「冬原君起きてるー?入るよー?」

「うん、起きてるよー、どうぞー」

「それじゃ失礼」

「お、おはよう冬原君…!」

「おはよう、白河しろかわさん。佐伯さえきさん」


 朝から僕の部屋へと訪ねてきたのはクラスメイトの佐伯と白河だった。こんな朝っぱらからなんのようなのだろう。

 僕は2人を部屋に備え付けてある椅子に座るように促す。

 椅子に座って2人は少しのあいだ目配めくばせをすると佐伯が口を開く。


「あのさ、朝から申し訳ないんだけど。昨日の告白のことちゃんと考えてくれた?」

「…ああ、あのことね?」


 しまった、完全に忘れてた。

 昨日の夜はこれからの生活について頭がいっぱいで正直忘れ去っていた。

 僕は急いでどうやって断るかを考えて瞬時に回答を導き出す。


「白河さん、君の気持ちはとても嬉しいよ」

「じゃ、じゃあ!」

「でも、君とは付き合えない」


 僕がそう言うと白河は泣きそうな顔になる。佐伯は聖槍を取り出していた。室内で武器を振り回すんじゃありません。

 このままだと槍で突かれかねないので僕はさらに続ける。


「これから先何が起こるかわからないし、君を守れるか僕にはわからない、だから付き合えないんだ…ごめん…」


 これはもっともらしいんじゃないか!?

 僕は内心自分をめる。だから佐伯よ、槍を構えるんじゃない。刺さるだろ。

 そして、僕から振られた本人は泣くかと思いきや__

 その顔は笑っていた。そして、白河はまだ震えている声で言う。


「そっか…それじゃあ、私が冬原君のこと守れるくらい強くなったら…また、考えてくれますか?」


 面倒くさいなあ…。

 しかし僕はそんな気持ちを表に出さずにニコリと優しく微笑ほほえむ。


「あやちゃんよく言った!よーし!強くなって冬原君のこと見返してやろ!」

「あはは!ゆうちゃんくすぐったいよ〜!でも、ありがとう!」


 そんな白河を見て佐伯は槍を消滅させると白河に抱きついてそう言った。

 まあ、笑いかけただけで答えてはいない。これならいざというとき言い逃れができるだろう。槍に刺されることを心配しなければではあるが。

 白河がどこかのイケメン王子に気に入られて結婚してくれないかな、などと現実逃避していると部屋の扉をノックする音が響き、続いて扉の隙間からひょこっとルナが顔を覗かせてニコリと笑うと部屋に入ってきて言う。


「朝食の準備が整いました、一緒に行きましょう」

「ありがとう、ほら、佐伯さんもいつまでも抱きついてないで2人とも行くよ」

「朝ごはーん!」


 僕がじゃれあっていた2人に声をかけると佐伯は元気に立ち上がり扉から出て行くが白河はピクピク痙攣けいれんして動く気配がないので声をかけてみることにする。


「白河さん大丈夫?」

「う、ん…大丈夫…」


 あー、これはダメだな…仕方ない、お腹も空いたし連れて行くか。

 僕はそう思い白河を抱きかかえる。丁度お姫様抱っこというやつだ。

 予想通り白河は顔を真っ赤にしている。


「にゃ、にゃにするの!?ふゆはらくん!?」

「ほら、歩けないなら運んで行ってあげようかなって。…嫌だった?」

「そんなことないです!!!」


 予想以上に食い付きが良くて軽く引いた。

 ルナに案内されてしばらく歩くと食堂の扉前で「もう大丈夫」と白河が言ったので降ろすと、やはり彼女の顔は真っ赤になっていた。それを見るルナの目は無関心といった様子だったけれども。

 そして、ルナに促されて室内に入るとその荘厳そうごんさに僕達はびっくりした。広い部屋に赤い絨毯じゅうたん、とても広いテーブルに純白のテーブルクロス、そしてその上には精緻せいちな細工が施された燭台しょくだいに、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。そして、そのテーブルに王様と昨日ルナの横にいた女性と佐伯が席についていた。


「どうぞ勇者様方、そちらのお席へお掛け下さい」


 ルナはそう言うと女性の向かいの席に座る。

 僕達もいつまでも立っているわけにはいかないので佐伯の横に座る。

 僕達が座ったことを確認してルナが口を開く。


「こうして皆さんで朝食を食べるので互いに自己紹介をしてみてはいかがでしょうか?」

「ふむ、面白そうじゃな」


 ルナが自己紹介を提案すると王様は微笑みながら肯定する。

 王様が肯定するとルナは笑いながら言う。


「勇者様方は知っておられると思いますが私はルナ=シュガルです」


 そう言ってルナはニコリと笑った。相変わらず目の奥は笑っていないが。

 次に向かいの女性が口を開く。


「わ、私はミア=シュガルです…えっと、ルナの姉、です…」


 向かいの女性、ミアはオドオドとそう言うと席についた。そんなミアをルナは忌々いまいましげににらんでいた。おい、せめて表情取りつくろえよ。

 僕がルナを見ていると今度は王様が口を開く。


「余はエルディア=ハル=シュガル8世である」


 王様は堂々とそう言うと席についた。

 今度は僕達の番か…

 そう考えて僕は立ち上がって言う。


「僕の名前は冬原夏樹です」

「私は佐伯優希です!よろしく!」

「わ、私は白河です…!」

「ふむ、フユハラ殿にサエキ殿にシロカワ殿か」


 王様の名前の呼び方は若干イントネーションが違ったが、まあ仕方ないだろう。

 僕達が自己紹介を終えたタイミングを見計らったかのように食事が運び込まれてくる。

 ルナは手を顔の横で合わせて言う。


「さあ、丁度食事も来たところですし食べるとしましょう!」


 食事はパン、サラダ、スープ、鶏肉のような肉、とザ洋食だった。

 後で知ったことだったが肉はなんと魔物の肉だったらしいのだが美味しかったので良しとします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る