Love, Election & Glico, Pineapple, Chocolate. - 5


 新歓オリエンテーションに出席してた男子、全員集ってないですか?

「ハァ????」

 蓋を開けてみれば、学園の裏山に大量の男子、男子、男子、男子、男子……

 講堂での空気感からして、集まったとしても精々一クラス規模程度かと思いきや!

 これから御柱祭でもやるんですか?

 里山の開けた斜面に同級生が、しかも男子ばっか鈴生りです!

(これだから男の子は!!!!)

 講堂では「こんな胡散臭い勧誘に引っかかる奴いるの?」とか嘯き合ってたくせに!

 みーんな来てるじゃないですか! ちゃっかり!

 「全然勉強してない」とか嘯きながら実際は満点取っちゃう嫌な奴ですか?

 いいえ、基本的に男子のファンダメンタルズは直結厨に等しい。綺麗な女子と仲良くなれるなら口実なんてどうでもいい。そういう生物です男の子。存在自体が不純な動機でできてる。

「もう、ほんと男子って……」

 私の中の男性脳も共感を示していますが……いくらなんでも即物的過ぎますよ!

 工作員Rage against the Beauty、別の意味で挫けそう……

「傾聴ぉぉぉー!」

「え?」

 諏訪大社の御神木なんかじゃなかった。里山の稜線へ現れたのは。

 澄み切ったスカイブルーを背に、靡く栄光の色。


  金 髪 の 女 の 子。 霞城中央のセーラー服を着たブロンドガール。


 日輪輝く金色少女が、眼下の群衆へ名乗りをあげた。

「傾聴せよぉ!」

 仁王立ちした彼女は拡声器なき時代の大将みたい、里山に響き渡る声で。その勇ましさたるや、ルビコン渡河を布告したシーザーの如く。不可逆の進軍を宣言する常勝将軍と見紛わんばかり。

 いや、見たことないですけど、物語フィクションでしか。

「嘘……」

 でもそれは私にとって【最悪】の人材。身勝手な命令で将軍の政治的野心を葬ろうとした元老院議員よりピンピンチです!

(新歓の子じゃなくなくないですか????)

 明らかに別人格。

 だって髪が……天使色に輝いてます!

 新歓で壇上に立った子とは高貴のベクトルが違うの。平安貴族より、異人さんのエキゾチック。仮の名を与えるのなら差し詰め『ラプンツェル』。捕囚の塔から金髪を靡かすラプンツェルです!

「日本語喋ってるけど……外人?」

「ウイッグ被ったコスプレイヤーじゃないよな?」

 違います、違いますとも。

 ここから見上げるとよく分かる。日本人の標準体型で誂えた寸法に収まりきれない、伸びやかな骨格と四肢。霞城中央のセーラー服が全っ然似合ってません!

 あれは外人さんのフォルムですよ、異なる人種の身体的特徴が出まくってます!

「あの子も贅理部の関係者か?」

「ここにいるってことは、そうなんじゃね?」

「なこたぁどうでもいいじゃん」

「だな」

「入部しないわけにはいかなくなった。その理由が一つ増えただけよ」

(もうほんとに男子って!)

 『  可 愛 い  』は正義。

 男の子にとっての問題は可愛いのか可愛くないのか、のみ。その原理だけで動いてます男の子。インターナショナルにグローバルに平等主義者です。

 でなきゃこんなことにはなっていない!

 見てください、里山の斜面を埋め尽くす男、男、男、男、男、男。全校生の約半数を惹きつけたモチベーションは何か? 男性脳エミュレーションを起動させなくたって分かります。

「おーし! 何やらされるのか知らんけど、絶対に勝ち抜いてやんよ!」

 男の子たち、新たなる人参の登場に鼻息が荒ぶってます、猛き若駒の嘶きが里山に溢れてます!

 私だってあの子と同じ格好なのに!

 SSRの激レア少女の前では、ぴちぴちぴっちな新入生女子も合成素材程度にしか認識されないんですね? くそぅくそぅ!

(てかてか! あの子も贅理部関係者なら大問題です!)

 霞城中央女子の恋愛安全保障を揺るがしかねない圧倒的存在が増えたってことになる!

「望むところよ入部試験!」

「やってやるぜ!」

 生々しい欲望を滾らせながらガルルガルガルと舌舐めずりしています、男の子たち。

 この中に私の彼氏候補が含まれているかもしれないのに、あんまり幻滅したくないのに。こういう現実に揉まれながら桜里子も大人になってくんでしょうか……

「だまれぇー!」

 ところがところが。

 愛と幻想のセクシズムの破壊者、それは男子だけじゃなかった。

「ぅぉーい、黙れクズども!」

 崖の上の金髪将軍さん、乙女にあるまじき口調で男子を罵り始めた。アンティークドールみたいな容姿からフルメタルジャケットのブートキャンプ。

「黙らんと中止すっぞ! いいのか、くらぁぁぁ!」

(や、やっぱりあの子も選ぶ方なんだ!)

 困る!

 恐怖の恋愛蝗女は一人じゃなかったの?

 霞城中央高校を恋愛理想郷から堕落の園へ変えちゃう傾国の美女、二人もいるの?

 絶対恋愛黙示録アポカリプスオブラブデスティニー計画、絶体絶命 風前の灯????

(アカン!)

 まさか同級生にこんな特異分子が何人もいたなんて……聞いてない!

 そんな重大事項なら入試要項に、学校案内に極太フォントで書いといて下さい!

 入学してからじゃ遅すぎる!

 こんな………こんなの……

「こんなの聞いてないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!」

 想定外の理不尽に湧き上がる思い、思い切り空へ訴えたら、

「教えてあげるわ!」

 思いがけない返答が、天空の超越者から妙なる調べが降ってきた。

「此処に集いし勇者の君へ!」

 いえ違います。

(この声は!)

 あの声です!

 私の慟哭へ呼応するかのように木霊した声。問答無用で意識を捉え、頼んでもいないのに滞留し続けるローレライボイス。陳腐な言葉も麗しの旋律として昇華さす、トークライトシンギング。

(――――かぐやちゃん!)

 満を持して霞城中央のかぐや姫が!

 オオオオオオオオォォォォォォォォッ!

「遠からん者は音にも聴けぃ!」

 開けた尾根に、少女の影。変身ヒーローのマフラーみたい、スカートをはためかせながら叫ぶ。首元にはキラリ何でしょう? 首輪? ここからじゃ遠くてよく分からないですが。

 兎にも角にもオーディエンス待望の彼女が、遂に姿を現した!

「第一回 贅理部入部セレクションによーこそぉー!」

 オオオオオオオオオォォォォォォーッッッッ!

 焦らしに焦らされた男の子たちは歓喜の雄叫び。

(こ……コンサート?)

 単なる入部試験だったはずの里山が、一気にウッドストックの熱気を帯びてます!

「多数のご来場、どぅーもありがとぅぉっ!」

 ワァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 コールアンドレスポンスがライブ会場です、ほぼほぼフェスティボー!

「…………」

 そして黙る。意図的なブレイクを挟んで衆目の関心を惹きつける。

 上手い。この子はマスター、マスターオブセレモニー。煽りどころと抑えどころ、会場の「匂い」を読んで両方のツボを的確に操れる人。

「……!」「……!」「……!」「……!」「……!」「……!」「……!」「……!」「……!」

 見て下さい周りの男の子たちを。滾る高揚を内に抱えながら、手懐けられた仔犬みたいに御主人様の合図を待っています。

「…………」

 そして静寂を破り彼女は、

「人類の歴史とは!」

 脈絡の辿れないフレーズを空へ放つ。

「は?」

「人類の歴史とは!」

 なのにみんな受け容れてしまうの、彼女の言葉を。語られるべき言葉だとして聞き入れてしまう。

 なんだ? なんだこの異様な有り様は?

「人の歴史とは!」

 一対多の構図でありながら、私だけへ訴えてくるような、まるで自分の耳元で囁かれているような錯覚を覚える――魔女のタッチングスピーチ。飛躍した文脈すら、さも当然と聴こえさす。

「淘汰である!」

「淘汰!」

 MCかぐやの為人も掴めぬまま、金色の洗礼。金髪将軍も姫を受けてフレーズを復唱する。

「幾度も訪れた絶滅の危機を耐え忍び、生き残った者こそ我ら人類であぁーる!」

「ホモ! ホモサピエぇーンス!        ホモ!」

「皆さんにはこれから淘汰されてもらいます」

 ウェェェェェェェェェェェィ!

 え? いいんですか? そんな軽はずみに盛り上がっていいの?

 なんかとんでもないこと言ってません? 崖の上のポニョポニョしている美少女たちは?

 ウェェェェェェェェェェェイ!

 だけどそんな危惧もお構いなしで、ノリノリの男子たちはプチョヘンザしてるし!

 狂騒の虜です。ええじゃないか? 美少女を巫女と崇める民間信仰ですか?

「まず、これ」

 金髪将軍が畳大のパネルを頭上に掲げると、そこに見覚えのある符号が。

「これ読み込んで」

 スマホカメラがコードを認識すれば、アプリのインストールページへ飛ばされ、

「……地図?」

 起動させたアプリに画像が出現しました。幼児が殴り書きしたみたいな手書き絵図ですけど?

「ゴールへ辿り着いた人を入部資格ありと認めまぁーす!」

(淘汰って競争?)

 我先にと野山を駆け抜け、ゴールへ辿り着けばいい?

 つまり入部試験って体力テストだったんですか?

 それが察せられると、ジャージ姿の体育会系は待ってましたと腕まくり、制服のままの眼鏡君たちは落胆の溜息を漏らしています。あからさまに二分されてて、反応が。

「部長、質問!」

 そんな悲喜こもごもの群衆から声が上がる。

「先着何人までOK? まさか一人だけってことはないよね?」

 言われてみれば。

 逆に言えば完走したら全員がOK、なんてゆとり仕様とも考えにくい。

 なにせこの数、男子ほぼ全員参加な様相では。

「「…………」」

 今、一瞬虚を突かれたみたいな表情してませんでした? 崖の上の美少女さんたち?

(まさか考えてなかったとか?)

 尾根の向こう側を向いて、金髪将軍ちゃんと姫、内緒話始めちゃいましたよ?

(もしかして本当に?)

 しっかり者に見えて意外とヌケてたりして?

 ルックスと声の時点で「天は二物を与えず」定説は破綻してるんだけど……やはり完璧な人間など存在しないってことですか? 神様も上手いことバランス採ってます?

「えー…………合格者は一応二人か三人を予定していまーす」

 即席の部内会議を終えた姫部長さん、決定事項を参加者へと下達する。

「しかしながら状況によっては若干の増員も考慮……最大七人ぐらい?」

 部長からアイコンタクトを送られたのに、「うん」でも「いいえ」でもない曖昧リアクションで首を傾げる金髪将軍。

 なんですこの二人?

 最初は今川義元の首を獲ったるで! くらいの勢いだったのに……打って変わってしどろもどろ。全く以て腰砕けでgdgd妖精じゃないですか。

(へ、変なコンビ……)

「よっしゃ、七人やな!」

 それでも男子たち、頼りない説明でも言質は取れたので、

「七位内なら入部権利ゲットだぜ!」

 確定した勝利条件を肴に気勢を上げる。鼻息も荒く前のめり。

 男の子って好きですよね、争いごと。何につけても他者と覇を競いたがる。できるなら争いごとには関わりたくないんですけど私は。

「ほいじゃスタートぞな!」

 セーラー服の金髪将軍が甲子園のアルプススタンドみたい旗をブンブン。

「勝てば天国、負ければ地獄! 知力・体力・時の運! 早く来い来い日曜日!」

 紅白の集中線みたいな旗が揮われる崖の下、都合三桁の男の子たちが山へと雪崩れ込んでいく。濛々と土埃巻き上げながら。

 ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

「ひー!」


 あ、甘かった!

 男子の後をついてけば安全なルートを走破できるかな? なんて見込みは甘かった!

 スタート時は激流に翻弄される笹舟状態でクルクル押し流されていきましたが、それもアッという間に集団の後方へ押し流され、置いてけぼりです。

 比較的なだらかな学校の裏山ですらついてけません、女の子の脚では!

 アップダウンの激しいクロスカントリー、体力差がモロに出ちゃいます!

「失敗した!」

 欲望は強力すぎるエンジンです。生半可な目論見なんて簡単に粉砕していく。

「どうしよう……」

 裏山を走破し終えた頃には、もはや男子の姿など影も形もなくて。

「引き返すなら今しか……」

 目の前を横切る県道を越えてしまえば、そこは登山道とは名ばかりの獣道。助けを呼ぼうにも容易ならざる本格的な山へと立ち入ることになってしまいます。

「このまま進んでも負けは目に見えている……」

 体力勝負じゃ男の子には分が悪い。自明の理。

 行くべきか退くべきか。普通に考えたら戦略的撤退を採るべきなんでしょうが……

『謎の彼女Xの本性を見極めてくるわ!』

 とか大見得を切っちゃったのにアッサリ撤退じゃバツが悪い。

「見えてるけど……」

 恋愛ラボには暗黙の了解、というか無言の圧力が存在する。

 『恋の掟』に明文化されておらずとも、

 『幸せになれる奴から先に幸せになってけ。但し、幸せは必ずお裾分けされなくてはならない』という恋愛トリクルダウン条項が。

 言ってみれば日本は巨大な村社会。

 暗黙の了解――成文法に勝るとも劣らない不文律が存在する、それが村社会の常です。

「…………」

 スマホのメッセージアプリへと目を落とせば……

 恋人ができれば発生する新たな人間関係コネクション、それを駆使して救出せよ。過酷な環境へと放りこまれた子羊たちを引っ張り上げろ。そういう斡旋者の期待を痛いほど感じる。

 恨みがましい嫉妬の怨念を籠めながら、私の背を押してくる文章。

 【恋愛理想郷への御入学、謹んでお喜びを申し上げます(男を紹介すること忘るるべからず)】。

 書かれていないのに()内の文章が浮かんで見える。

 添えられたスタンプからは黒い情念がダダ漏れしてます。分かってんだろな? という無言のプレッシャーが迸っています。念の篭った文章の圧力は、ログを遡ることすら躊躇われるほどです。

【自分一人だけが幸せを謳歌するなど、あってはならないこと】

 この不文律は強固です。

 戦後のどん底から一億総中流へと押し上げた要因の一つでもありますが……物事には常に光と影が存在しているんです。

 コミュニティから村八分されたくなければ、出る杭の身勝手は許されない。

 不文律には無条件で従わねばならない。

 日本には契約行為より大事なものが存在するんです!

 なればこそ、

「何の成果も得られませんでした、じゃ申し訳が立たないですよ……」

 私だけではなくラボメンの明るい未来にも支障をきたしてしまうかもしれない極大特異点、その正体を詳らかにできないままで退散など。

「とはいえ、これ以上進んでも…………ん?」

 ぶぉぉぉーん……

 珍しい。こんな辺鄙な県道を登ってくるエンジンの音。

 流通向けの基幹路線からも外れてるし、これといった観光地もないのに?

「走り屋さん? こんな真っ昼間から?」

 途方に暮れながら見つめていた麓側のブラインドコーナー。

「ほえ?」

 ギ……ギャッギャ……

 そこへ!

 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 豪快にお尻振りながら!

 ミッドナイトの湾岸を駆け抜ける911ブラックバード! ……じゃない!

(四角いぃ!)

 ファミリーユースのコンパクト三列シートとは一線を画す、大ぶりなワンボックス! まるで土木系の業務用車みたいなゴッツい奴が! しかも艶消しの黒でオールペイントされてる、街じゃ絶対近寄りたくない系の! 車の主たる反社会的組織の人から法外なレートの示談条件を言い渡されそうな!

 それが!

 私の方へとスッ飛んできて! 一直線に向かってきて!

(――――死ぬ!)

 いきなり? いきなりですか?

 定番のトラックテンプレで昇天ですか? 交通事故から始まる物語ですか? 目覚めたらどっかで見たよな異世界ですか? きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜですか?

 イヤ! 嫌ですそんなの!

 せっかく女子高生になれたのにラブロマンティックのラの字すら体験せぬまま逝くなんて!

 球児の晴れ舞台へは行けなくたって、めくるめく恋の花園には到達できたはずなのに!

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 なのに!

 重量数トンの鉄塊は、些かも勢いを落とすことなく!

 来るよ来る来る! 来ちゃいます!

 ズザザザザザザザザーッッッ!

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 ……たす………………………………かった?

 濛々と巻き上がる土埃、アスファルトとタイヤの焼け焦げた匂い。

「…………!」

 ゆっくりと瞼を開ければ、強引なドリフトターンを果たした黒鳥が動きを止めていた。

 黒鳥というよりも全ての面が黒いカステラとでも呼んだ方がシックリきそうな車が。県道脇の退避ゾーンで身を固くした私の目前で。

 バキャ!

「ひっ!」

 触ってもいないのに施錠が外れる音!

「え? ええ? えええ? ええええええええ?」

 キッツいスモークの貼られたリアゲートが徐々に跳ね上げられていくと……

「は!!!!」

 荷室に載っていた、真新しい白とネイビーブルーの制服。

 そこへ垂れる黒の束。端まで縺れることなく伸びやかなに零れ落ちる繊維の芸術品。

「か…………かぐやちゃん!」

 ゲートが上がりきる前に分かった。光るキューティクルの質感と透き通るほど白い肌を拠り所に。

 尾根の彼女、首元で輝いていた「首輪」はメタルカラーのヘッドホンでした。少女の有機性と相反する無骨なハウジングを引っ提げ、イントロデュースハーセルフ。部活勧誘オリエンテーションに突如として現れ、同級生男子の注目を掻っ攫ってった霞城中央のかぐや姫が!

 諦めかけたRage against the Beautyの最終目標が向こうからやってきちゃいました!

(うわ……)

 まぶしっ! 白さが眩しい!

 一点の曇りもない肌って、こんなにも光り輝いて見えるの?

 至近の距離で目の当たりにすれば、さながら光る源氏の処女おとめ! 光源子!

 紫式部さん、疑ってすみませんでした! 人が光るなんて誇張表現にしてもやりすぎじゃ、と侮ってました古典の授業で。

 かぐや姫が竹林で光り輝いていたのも爺が耄碌してたわけじゃないんですね!

 私が無知なだけだった!

 本物の美女とは斯くも神々しく……天女の羽衣とは美しきオーラの比喩だったんですね!

「あんた」

 あの講堂の彼女です。光る源氏の姫、アルカイックな神秘をまといつつアグレッシヴに意識を掴みかかる、そんな不思議な表情を浮かべて会話の口火を切る。

「はひぃっ!」

「……あんたが山田桜里子?」

 しまった油断した!

 源子さんはローレライ、衆人から理性と正気を奪い去るマーメイドボイスの持ち主!

 新歓オリエンテーションで体験済みなのに!

「はははははいぃいぃぃぃぃ」

 絶妙ビブラートのルナティックにアテられた私は呂律も回らない。

 無様! 無様だわ山田桜里子! あなたの女子力はゼロよ!

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