第4話「食堂談話と銭湯のヤジ」

 金曜日の昼休み、龍太朗の姿は食堂にあった。家からの弁当とかき揚げうどんを頬張る龍太朗の斜向かいに、塩鯖定食の味噌汁をすする透。その隣りには、いつもならこの二人とはあまり行動を共にしない男が、行列から抜け出してようやく手に入れた唐揚げ丼を持って席に着く。


「なあ鬼頭」

 白飯が入った口を出汁で温めた龍太朗は、米をさっさと喉に流し込んでから尋ねる。入部の際に聞いた話について、もう少し詳しく聞きたいと考えた龍太朗は、透と連れ立って、昼飯に大を誘った。

 大は、丼を食べようとした矢先に、早々に話しかけてくる龍太朗を若干疎ましく感じた。

「お前は親から野球止めるように催促されてる、とかなんとかやったな」

「あぁ」

 なんだそのことかと、大は気乗りしない表情で丼を掻き込み始める。

「何が原因や? そんなん言うなら小さい頃からさせんほうが得策やろ?」

 それは一理あるかもなと、透は食堂の天井に視線を移す。

「元々は自由に好き勝手させてはくれた。ただ、俺は長男だ」

「それの何が問題やねん」

「家督だ」

 深い考えを持たずに聞いてはみたものの、今どきでもそんな次元の話があるのかと、龍太朗は少し面食らう。一口大のから揚げと白米をレンゲいっぱいに大が頬張り、きっちり味わってから飲み込む。


「俺の実家は寺でな、爺さんがそこの住職だ」

「え、親父さんは?」

「整体院をやってる。まあ、寺の離れで柔道教室も兼ねてやってるから、二束の草鞋ってところだ」

 大の父親も、彼に負けず劣らぬ大男である。かつては世界大会の代表にも名前が挙がる柔道選手だったが、相次いでケガに泣かされ、檜舞台に立つことは叶わなかったという。

 大学を卒業した父親は寺を継ぐことなく、近所に整体院を開設して生計を立て、その合間に地域の子供たちに柔道の指導をしている。

「野球止めろ言うてるんは誰や? 爺ちゃんか?」

「親父のほうだ」

「またなんでそんなことに?」

 透が話の核心を捉え切れていないようだったため、大の語気がにわかに強まる。

「親父が継いでない以上、寺の次の住職をどうするか、色々考えないといかん時期に来てな」

「兄弟っているの?」

「弟と妹はいるが、後を継ぐかどうかは、何ともな」

 一人っ子である透には少し羨ましい話であったが、複雑な話もあるものだなと、現実に引き戻される。

「親父としては、さっさと大学受験の勉強に打ち込んでくれだとよ。プロ野球に行きたいって言っても、結果が出せないなら辞めさせるの一点張りだ」

 ため息の後に唇を噛んだ大に、かき揚げを前歯で引き千切った龍太朗は飄々としていた。

「なんか話聞いてるだけでも、お前と親父さんって相当似てるんやろうなって思う」

「なんでだ」

 父親と似通っていると言われ、大は龍太朗を睨むように顔をしかめるが、対面の少年は続ける。

「だってそうやろ? 自分は継いでへんのに、息子に無理に継がそうとしとる。親父さんも柔道にこだわってたんやろうから、柔道教室と整体院やってるんやろう、おそらく。野球続けたいって反目し合ってる、鬼頭と一緒やな」

 龍太朗は言い終えてから、今一度うどんをすすり直すと、目元がキリリと整う。

「でもそういうことで、長男としての自覚と責任感持って悩めるからして、鬼頭が悪い人間じゃ無い事は、この話でよ~う分かったわ」

 目を見開きつつ言い終えた龍太朗は、懐の深い大人の男の様相であったが、鼻からため息を出した大は、一番大きな唐揚げを口に頬張ってもなお、腑に落ちない顔になる。

「第一、名門校の資料燃やされたからて、何度でも取り寄せたらええもんを、お前さん引き下がってるわけやからな? 鬼頭が爺ちゃんのことも思って、無碍にでけんかったんやろう?」

 大としては図星を指された格好になったが、悟られるまで追い込まれる気は毛頭なく、何とか切り返そうとする。

「それに引き換え、お前らは自由でいいな。親父が野球選手なんだから、さぞかし野球やれって勧められたんだろう」

 恨み節を込めるように放った大の一言は、残念ながら少年二人を同調させるには程遠かった。

「何言うてんねんなお前。そうとは限らんぞ」

「そうそう、僕の父さんなんか大怪我してそのまま引退だからね。大変な思いしてるから、野球がしたいって言ったときは、あんまりいい顔してなかったなぁ」

 ねちっこい反駁者のように、背もたれに仰け反りながら反論する龍太朗に対し、頬杖を付き、遠い目をしてかつてを思い返すように語る透。

 天才と称される野球センスを誇る彼だが、それは少年が謙虚な姿勢を崩すことなく、野球に打ち込んだ賜物、というそれだけのことではない。


 透の父親は、80年代にプロ野球界へ彗星の如く現れた若きスター選手、光月みつるである。

 経徳けいとく義塾大学の野球部に所属し、東京六大学野球の各年度で高打率を叩き出した天才打者は、その期待そのままに、阪陽はんようトムキャッツや阪海はんかいサンダース、上武じょうぶユニコーンズ、第一ハムフォックスなどの各球団が指名。くじ引きの末に、大学時代のホームグラウンドを本拠地とする、東京ファルコンズが交渉権を獲得し、ドラフト1位で入団する。

 充の活躍は、初年度から目覚しいものであった。当時黄金期を誇ったファルコンズの中で、相手投手を苛立たせる粘りと天賦の打撃センスを見せつけると共に、縦横無尽にダイヤモンドと外野を駆け抜ける充の姿は、端整な顔立ちも相俟あいまって多くの女性ファンの視線を奪っていた。

 入団3年目には人気女優と結婚し、5年目のシーズン前には妻の地元である大阪に新居を構え、単身赴任ながら一流の活躍を見せる。彼ならば、日本球界で一人しか達成できていない3000本安打の壁を打ち破ると、多くの野球ファンが信じて疑わなかった。

 5年目のシーズン最終盤、充は試合中の守備でチームメイトと正面から激しく交錯し、足や骨盤などを骨折する大ケガを負う。その際の神宮球場に響いた、鈍く低い音と女性ファンたちの悲鳴は、ファルコンズファンの心に深く刻まれた傷である。3年以上リハビリを続けたものの、成果は上がらず、30代足らずにして、若き才能はユニフォームを脱ぐことになってしまった。


 最後まで戦い抜いた龍太朗の父親・真太郎とは対照的に、悲劇のヒーローとも評される充を父に持つ透は、物心つくころには父親のプレーを映像の中でしか見ることができなかった。

 しかし、父親からの血脈はさすがの一言であり、幼い頃から韋駄天の片鱗を見せ、野球を始めてすぐに周囲を驚かせたセンスの高さは、まさしく“父親の生き写し”とも称されてきた。

 プロ野球選手の息子二人が、隣近所で幼馴染になるというのも極めて珍しいが、元はといえば、二人の母親が中学からの同級生であるからして、収まるべきところに収まったと考える方が、自然であるのかもしれない。


「たくさん心配はかけたかもしれないけど、認めてくれた父さんには感謝してるよ。受け継いだセンスは、生かしてあげなきゃね」

「透の場合はハナから意欲が旺盛やったからまだマシや」

 微笑を浮かべながら話す透に、うどん出汁を飲み切って一息ついた龍太朗がそう言うと僅かに俯き、もう一つ息を挟んで続ける。

「俺の場合は、そもそも野球が怖かったからなぁ……」

「どういうことだ?」

 あまりにも意味深な言い草である。気になった大はさすがに手を止め、畳み掛ける。

「お前にだって野球センスの血は流れてるわけで、今だって野球やってるわけだろ? 怖いってなんだ」

 大の言葉に視線を落とす龍太朗はハッとして何を思ったか、間に合わせのように弁当箱をさっさと片す。

「悪いけど、話し出すと結構長なるからまた今度時間取れたら話すわ。ごちそうさん」

 苦笑を浮かべつつ立ち上がりながら早口で言い残すと、いそいそとトレーと麺鉢を返却して、そのまま教室棟へと戻っていってしまった。


「話したいとは思ってなさそうな口ぶりだな。なんかあったんだな、昔の浜風には」

 突然の夕立にでも打たれたように呆れかえる大をよそに、透は鯖を摘まむ。

「僕も知らないわけじゃないけど、本人が話すのがもっともだとは思うし、あんまり言えないけどね。龍太朗って今と昔じゃ随分変わったんだ」

「元からあの風体で生まれてきたような奴だがな。分からんもんだな」

 食券の販売機とカウンターへの行列がそろそろラッシュを終え、広い食堂が若い男女たちの話し声でごった返している。会話が掻き消されそうになる中、大は若干声を張る。

「それにしても、向こうが呼んだってのに早々に食べ終えて帰るとは、配慮も何もないな」

「龍太朗、他人ひとよりさっさと動くタイプだし、昔の話聞かれると思って、案外萎縮したのかも」

「逃げたって事か」

「なくはないね……」

 吐息を混じらせた透の言葉を聞きつつ、大はさっさと唐揚げ丼を平らげたものの、右隣を見て少し驚く。

「お前まだそこまでしか食べてないのか」

「話し始めると箸が止まっちゃうからさぁ」

 大は今日幾度目かのため息を吐き、呆れる。

「早い内に食べとけよ。もっと食わねえと、カラダ頑丈に出来ないぞ」

「量が食べられないから、いつも大変なんだよねぇ。まあ、ちゃんと食べ終えるよ」

 思慮深いのか、暢気なのか。野球部が始動してはや2週間近くが経ってもなお、いまだ掴みきれない透の人物像に、大は彼の心の底流に、冷たい某かが潜んでいるのだろうか、と疑ってしまう。

 ただ、寺の家系の子どもとして、龍太朗の過去にもなんらかの闇があるのであろうことは、語られずとも容易に察しは付いたのであった。





 練習を終え、帰路に着いた美里は、清香と桜に誘われて街の銭湯に足を伸ばしていた。夕飯を食べ終えてから集合した3人が、すっかり更けた春の夜の下を並んで歩く。

 小学4年に東京から越してきて以来、一緒に過ごす事の多い娘たちであるが、銭湯への道を3人で歩くのはこれが初めてだ。

「みさっちゃん何回目? あっこ行くの」

「今日でたぶん、3回目ぐらいかな」

「そんな来てないん? なんかちょっともったいないな」

 いくら各家庭に風呂が整備されたとしても、たまには大きな湯船でノビノビと風呂の時間を楽しみたいと思うのは、豊かになった現代人の風情とも取れるもので、マンションや住宅街が整備された街の中に、昭和の雰囲気を賑やかに漂わせる銭湯が、時代の波に抗うかのように佇んでいる。

 彼らの街で長らく愛されているその銭湯に、清香は月一度、桜と連れ立って行くほどの常連である。

 暖簾をくぐれば、30余りの畳が敷かれた横合いの広間で、風呂に入り終えた客たちがくつろぎ、世間話に興じている。それを横目に3人は更衣室に入って、着替えを早々はやばやと済ませると、かけ湯をしてさっさと湯船につかった。

「あぁ~っ! 最っ高!」

「清香、おばはんみたいやでそれ」

「おばはんやったらもっと『あ゛ぁ~』みたいに言うと思うけど?」

 即興の姉妹漫談とも思えるやり取りに、美里はクスクスと笑いを堪えきれない。乙女たちの笑いが落ち着いた頃、美里は小さく息をく。


 年頃の娘たちの会話のネタは、いったいどんな鉱脈を掘り当てているのか、いつ如何なる時も噴出し続けるもので、他愛のない会話を挟みながら湯船を出て体を洗い、もう一度湯船に入り直して、そろそろ帰る頃かなと美里が思い始めた矢先、清香が不意に問い質す。

「そういや、みさっちゃんさぁ、龍ちゃんとは最近どうなん?」

「あぁそうや、聞けてなかったなぁ。最近どないなん?」

 桜もわざとらしく、思い出したように同調する。

 普段の学校生活の中では、龍太朗と美里の仲はかなりの親密度合いだ。

 はたから見ていれば、付き合っていても何らおかしくはない距離感である2人を、周囲は時に面白おかしく、時に心配しながら見守っていた。だが、ことごとく何の状況変化も見られない2人に対し、特に清香はヤキモキしていた。

 美里は急に聞かれた事で目が点になり、大いに戸惑ってしまう。

「どうもないよ。特に何も」

「またまた~冗談言っちゃって~」

「みんな気になってるんやで? なんか話してくれてもええやろぉ?」

 槍玉に上がる美里は2人に挟まれ目線が泳ぐ。口篭った少女が俯きながら発したのは、湯船の波に煽られる小船のような心許ない声であった。

「なんだが、龍太くんから話しかけてもらうこと、減ってるような気がするの」

「どういうことそれ?」

「龍太くん、離れたいのかな……。私と一緒にいるの、嫌……なのかな?」

 桜は、想定を飛び越えた意外な返答に当惑してしまう。

「それホンマに言うてんの? 傍から見たらあんまりそうには見えんねんけど」

「私、まだ龍太くんに頼りたいことたくさんあるの。まだ、何もお返しできてないけど、なんだか……」

 不安がる親友を見かねた清香は声を張り上げる。 

「も~う龍ちゃんつれへんなぁ! みさっちゃんもそろそろ出るとこ出たら?」

「で、出るって何を?」

「いいかげん龍ちゃんがどう考えてるんかはっきりさせんと!」

「えぇっ、そんな、そういうわけにも行かないよ……」

 ニヤけていた清香の顔は、逆上のぼせか興奮かいざ知らず、真っ赤になりながら眉を吊り上げている。

「なんでよ。だったらなんで告白せんのよ」

「だって、だって……。迷惑だって言われかねないでしょ?」

「よう言うわ、みさっちゃん。あんだけ仲良くて断るなんてことある?」

「清香落ち着きぃな。場合によっちゃ一世一代のことかもしれんのに急かしたらアカン」

「落ち着いてられるかいな! このまんまじゃあかん。龍ちゃんをギャフンと言わせんと」

「そこまでしなくていいからっ」

 清香が息巻くのを桜が諌めようとするも効果は乏しく、美里が集中砲火に困り果てる。

 そんな折、壁の向こう側から巨人のような声が放り込まれてくる。

「お嬢さんがたー、もうちったぁおしとやかに風呂入れんかぁ?」


 自分で渦中の男にさせてしまった少年の不意な登場に、清香の言葉がつんのめる。

「りゅ、龍ちゃん!?」

「静かに入りぃなぁ。逆上せてもうて風呂がぬるなるで」

 かけ湯の音がし終わると、声の主が湯船にざぶりと入った。

「ほれにしても、随分ケンカ腰やな。澄吉のお嬢」

「うるさいなぁ、色々こっちは話してたんやで?」

「その割りには、どえらい一方的な雰囲気やったけど?」

 壁際に引っ付く形で湯船につかった少年は、顔を上げながら響く声を天井に跳ね返す。

「龍ちゃん、美里ちゃんになんか妙なことしたりしてへんよな」

「なっ、何を言うんや! ほんなもんあっちゃならんわ!」

 少年の声は焦りと怒りを込めての早口だと清香は判断したが、少年からすれば責任感からの語気の強さである。

「特段、ここで話すようなことはない。なんかあったとてわざわざ言わんし」

 一つ息を置いて続けた龍太朗に、頬を膨らませながら清香は壁の向こうに言い返す。

「ああそうですか? 幼馴染やっていうんに冷たいもんで」

「誰にだってプライベートはあるやろ。不躾(ぶしつけ)に聞かんでくれ」

 これ以上幼馴染の怒りが込み上げないよう、諭すようにテンポを落としてボールを投げ返す龍太朗であったが、鼻から息を吐き出した清香は、返送品の受け取りを放棄した。

「も~う、みさっちゃん。上がろ」

「え? う、うん」

「もう、清香もそないカッカせえへんの」

「してへんし!」

 膨れっ面の清香に苦笑いしながら、桜と美里が続いて女風呂を出ていく。


「なにがあったやろうのぉ」

 嵐が過ぎ去ったものの、その呆気無さに気抜けして呟いた龍太朗は、ヒタリと壁に寄りかかる。そんな彼に周りの客から声が飛ぶ。

「モテとんなぁ真ちゃんの息子君」

「せやせや、若いからこそやで、羨ましい話やホンマに」

「そんなんちゃいますって。今のはただの同級生ですから……」

 顔の知れた親を持ってしばらく。こういった野次にも随分とは慣れたものの、いくらマウンド度胸が据わっているとて、気恥ずかしさはなかなかに取れないものである。



「なんや。出てきたとこかいな」

 手早く頭と体を洗い終え、サウナにも寄らず風呂を出た龍太朗が、半分ほど飲み終えた牛乳瓶の頭を右手で摘まみつつ大広間へ出ると、先ほどの声の主が3人揃って畳に腰を下ろした直後であった。

「龍ちゃん、もう上がってきたん!?」

「そらお前バッと入ってジャーっとやったら仕舞いや。着替え場で時間取りすぎやで君ら」

 擬音混じりのハイテンポな龍太朗の関西弁ラッシュに、「相変わらずだね」と美里が微笑むものの、話を返された当の幼馴染は不貞腐れている。

「龍ちゃん、どっから聞いてた?」

「何の話や?」

「ウチらの会話!」

「キヨちゃんそない怒らんでも」

 そうまで気に触ることをしてしまったのか、フンスカしている清香に皆目見当がつかず当惑する龍太朗も、とりあえず質問に回答する。

「入ってすぐぐらいに、サク姉がキヨちゃんに落ち着け云々言うてたんは聞こえたけど、音くぐもり過ぎてよう分からんくなったわ。ただ、キヨちゃんが俺に何かあるんは分かったけど。んで、その話の核はなんや?」

「教えてあげん」

「なにぃな難儀やなぁもう」

 龍太朗は飲み終えた牛乳瓶を右の二本指で挟んで自販機横の返却ケースに仕舞う。

「ま、その辺は無理には問い詰めんとく。にしてもあれやな、風呂は心の洗濯とはよく言うたもんで。スッキリするもんやね、久しぶりに来ると。悩み疲れも忘れられるわ」

「えぇ? 悩んでる風に見えんわ」

 瓶をケースに入れた流れで傍にあったマッサージチェアに腰掛けた少年に、素っ頓狂な調子で桜が答えると、龍太朗の呆れ返った口調が返ってくる。

「なに言うてくれてんねん。俺かて色々悩んでるんやぞ?」

「恋愛の話?」

「ふぉっといてくれっ」

 居丈高に清香がブスリと刺そうとしたのを、龍太朗は溜めながらのツッコミで振り払う。その後ろでは美里が清香の発言にビクリとしていた。

 ただ、威勢のいいツッコミを終えると、ため息と共に少年の目線が落ちる。

「何せ、ウチのチームまだ9人しかおらんからのう。グラウンドが寂しい」

「部員数の話?」

「そらそうやろ。なんぼなんでもあの人数じゃ持たんて……」

 なんとかしたいと思っていても、半ば諦めの口調にすら感じられる龍太朗の言葉は、息に無理矢理放り込み、押し出すようであった。

「100人欲しいとは言わん。ただ、部員なんてすぐに20人ぐらいなると思ってたんやけどな」

 切実な問題であることは、清香たち3人も当事者として頭の隅で認識はしているが、行け行けドンドンの勢いある志で、翔聖学園に進学したはずの龍太朗から出てくるとは思えなかった暗い声色に、事態の重大さを思い知らされる。


「紅白戦がでけんと試合感がバカんなる。個人個人の負担も多いし、なんとか勧誘せんと……」




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