第10話 叔母さんは島の人
「ごめんなさいね~お茶出すの忘れてたわ。駄目ね~たま~にお料理すると他の事忘れちゃうなんて」
てへぺろしそうでしない雰囲気で微笑みながら紅茶と手作りクッキーの載ったお皿をガラステーブルに置いてパタパタといいそうで鳴らない足取りで台所に戻っていった。
今日は大きめのお皿に盛ってあるので、二人で食べててねという事か。
「話というのはね、僕も今年で還暦だし奥さんと二人で旅行に行こうかと思っててね」
「それはいいですね。年中無休で年末年始とお盆しか休みが無いから、どこも混んでるし遠くへはいけませんよね」
ご主人今年60歳…年齢の話は初めてした。
「うちの父母より年上だったんですね。同じ位かと思ってました」
「まあ…うちは子供がいないからね。気が若いのさ」
白い歯を見せながら。にかっと悪戯小僧のようなまなざしで笑うご主人。
「旅行云々は何時かは思っていたけど、きっかけは叔母が去年亡くなったからでね。」
「それは知りませんでした。お悔やみ申し上げます」
ぺこりと頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます」
ぺこりとご主人が頭を下げる。
「叔母は老衰で亡くなっているから寂しくはあるけど悲しくはないんだよ。その年代にしては珍しく生涯独身で、子供もいない人だった。その叔母が住む島で作られた野菜やハーブを使って全ての料理が作られていたんだよ」
「そうなんですか…」
「幸い他にも、僕の甥がその島で残務処理をしてるからまだ入手できている。問題は甥も大学を卒業して暇だからやってくれてるけど、4月には就職するから、叔母の野菜やハーブは今ある限りで当面入手できないんだよね」
奥さんかご主人の兄弟の子かな。
「去年の夏に亡くなって、葬式後は叔母の知り合いが交替で島から食材を運んでくれたり、畑の世話をしてくれてたんだけど、皆さん高齢でね好意に甘えるわけにはいかないから、秋からはこちらから取りに行って、畑の世話だけお願いしてたんだ。でも高齢な方ばかりだから、年末年始からは甥に通ってもらって、今は一時住んでる」
「亡くなってから結構経ってたんですね…」
「亡くなった後の処理は、畑の事以外はスムーズに行われたよ。本当に他人に迷惑をかけない叔母らしいよ」
未婚で子供のいない高齢女性が島に一人で畑仕事?
何人位住んでいる島なのか。
ここから店をしながら行ける島ってあったっけ??
「予約を入れてるお客さんには夏の時点で、これから使われる野菜やハーブの入手先が変わるから、もし気になるなら無料でキャンセルを予約1か月前まで受け付けると事情を説明した手紙を発送して、君には手紙じゃなく口頭で説明したくてね。どう話したものかと考えあぐねていたら、あんな唐突なメールになってしまったよ。ごめんね」
45度位の角度で、ご主人がソファーに座ったまま、膝に両手を添えて頭を下げてきた。
「謝らないで、頭を上げて下さい。しょうがないですよ。寿命は誰にもあるし、私の存在を大切にしてくれていたって事でしょう?ショックではありましたけど、お気遣いはとても嬉しいです」
「そういってもらって助かるよ。奥さんにはこの半年以上、あなたが連絡しないなら私がするとプリプリ怒られてたんだけど、僕がすると引かなかった結果これだからね…男って肝心な時は情けないもんだよ」
顔をくしゃっとさせて、年齢相応の笑い皴が幸せな年輪のように見えた。
この8年で、少しおでこが広くなったが、多分あるがままに任せるだろう。
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やった!今日は加筆必要なしで1場面の区切りまで書けた。
一話多く更新していたので、明日は更新がありません。
18日午後6時更新です。
でも、明日は出かける用事があるので、予約更新分書く予定。
明日の話で、昼ご飯に呼ばれて客間に移動予定です。
本題に行く予定?
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