第9話 現実に戻って打ちひしがれる

 ショックが大きすぎて現実逃避。

 もう店の前だし、覚悟を決めてインターホンを押す。


 「はぁ~い、どなたですか?」

 「亜夢です」

 「はいどうぞ。お待ちしておりました」

 

 ふんわりと奥さんが微笑んでドアを開けて迎えてくれる。


 「ちょっと待っててね。今お茶入れてきますからね」

 

 いつも通りにパタパタと擬音をつけたくなる小走りで、見た目より音をさせず厨房というカウンターキッチンに入って行った。

 勝手知ったる…ダッフルコートとマフラーをハンガーにかけて、玄関にあるファッションハンガーへコートをかけてからロングブーツを脱いで上がる。


 自分で真っすぐ客間に行こうとした。

 

「今日はこっちに座ってね」 

 

 カウンターキッチンから声がかかった。

 客間は、カウンターキッチンのある居間を横切って左側の扉の向こうにある。


 「わかりました」

 

 居間には32インチ位のテレビと、ソファー二つに挟まれて細長いガラスの天板に、中段に物が置けるようになっていて、今は三月のせいか雛祭りの小物を置いてあり、支えや淵はガラスの鉄製で出来ているように見える。

 それがガラスの天板越しに見えて可愛い。

 奥さんの気分で、毎月ディスプレーするものが変わる。


 今には暖炉がある。

 たまに暖炉に薪をくべさせてもらえるのが密かな楽しみ。

 北海道はどこも3月はまだ寒く、ストーブや炬燵を片付けている家はほぼ無い。

 札幌辺りならば、4月にはしまうだろうか。

 小樽だと海の近くなだけあって、5月位まで使う事もあると奥さんが言っていた。

 

 「いらっしゃい。奥さんは奥でお昼の支度してるから、用意が出来るまでこっちで

くつろいで貰いながら話そうと思ってね」

 

 そういいながら、私の向かい側のソファーにご主人が座った。


 「ショックでしたよ…このお店があったから、九十三達がいたからこの9年仕事辞めずに頑張ってこれたんですよ…」


 北海道に住んでいた友人達は、正社員組は道外へ行き、アルバイト&ニート組はその日暮らしに精一杯だったり引きこもってまともじゃない状態になったりして、こちらもLINEを返す暇もなく、結婚式があっても呼ばれなかったり、呼ばれてもブラック居酒屋の店長の代わりはおらず有休をとる事もままならないから欠席。キャリアウーマンと子持ちの専業主婦が多く話題も合わないし、高卒で就職すると友達関係を続けるのも中々厳しいものがある。


 普段外食をする暇のない私が、他でも食事をしたいと思わず、尚且つ添加物を使わず、素材を生かした色んな国の要素を取り入れつつ、素朴な滋味あふれる料理はの食べられる飲食店でありながら、仕事をする以外は味わう暇もない食事と湯船につかるよりも一秒でも眠りたいそんな日々の中で、ご夫婦の人柄がドライな家庭に育った私の第二の家に帰ってくるような大切な場所を失う喪失感は半端ではない。

 


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次の話で、無人島の話が出てくるかもしれません。

今までの話に、実は伏線がちょっと隠れています。

毎日一時間書いて、ブログばかり書いていた感覚を普通の文章を書く感覚に戻すために書いております。

 

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