第3話

第3話


玄関の前で立ち尽くしていた。

頭には、さっき沙百合さゆりが言っていたことでいっぱいになっていた。

確かに沙百合は小さい声であったが、俺に向かって「いってきます」と言っていた。

沙百合が喋ってくれた、沙百合が! あの沙百合が。

俺は嬉しさで胸がいっぱいになってた。


手を真上にあげて嬉しさで叫んだ。

「や、やったー!」


出会ってから、聞いてなかったか声をやっと聞いたぞ! 沙百合さゆりの可愛い声を!

………あぁ、死んでもいい。

これなら沙百合と会話ができる時も近いかもしれない。


時計を見ると、俺も学校に行かないといけない時間をすでに過ぎていた。


「や、やばい!」

焦りながらカバンを持って、俺も玄関から飛び出した。

沙百合の事を考えると時間が早く感じられる。



チャイムが鳴るのと同じに教室に入って間に合った。

静かに席に座ると隣の女の子が話しかけてきた。


「また、急いで来て。何かあったの?」


「それが聞いてくれよ!」

幸せそうな顔をして彼女に言いよると、少し退いていた。

彼女の名前は、真白ましろ 雪菜ゆきな

黒髮のロングが似合う、完璧なる美少女みたいな奴で、俺の友達である。


退いていた雪菜ゆきなが、少し興味を示して話しかけて来た。

「で、何があったの?」


沙百合さゆりが、沙百合が『いってきます!』 って言ってきたんだぞ!」

目を本気まじにして、雪菜に言い寄っていた。


「ちょ、近いって!」

雪菜は俺の顎を押して、自分から距離を離してきた。


「それで、妹さんがなんって言ったの?」


「だから、いってきますっていったんだって!」


「それは良かったじゃない」


「もう嬉し過ぎて死んでいいかも。沙百合さゆり、可愛いから」

今にもとろけそうな顔をすると、雪菜ゆきながキモい物を見る目で睨んでいた。



「あんたって結構キモいよね」


「キモくないだろ? 」


雪菜はすぐに頭を横に振って、

「いいや、十分にキモい。それに沙百合さゆりさんとは血が繋がってないでしょ?」


「そうだけど………」


雪菜には妹の事を全て話している。

血の繋がってない事や、無言の事も。

それに紅羽くれはの事も話してあるので、俺の家庭事情を全て知っている。


真剣な眼差しで雪菜ゆきなに言った。

「血は繋がってなくても、俺は兄妹だと思ってるんだよ」


「あんたって沙百合さゆりさんと何がしたいの?」

何がしたいって仲良くなる以外にないだろ。

沙百合と話せる様になるのが夢だし。


「仲良くなりたい」


「本当に? 妹さんの事、好きなんでしょ?」

何が言いたいんだ雪菜は。

沙百合の事を好きなのは当たり前だ。あんなに可愛い女の子好きにならないわけがない。妹だったら尚更だ。


「あぁ。もちろん大好きだ。沙百合さゆりの事ならなんでもする!」


「キモ! いやいや、流石に大好きはキモ過ぎるでしょ!」

雪菜は顔を青ざめて後ろに飛びのいていた。


「キモいはもうやめて! 自分でもわかってるから」

キモいとか俺が1番わかってるの。

でも仕方ないだろ、沙百合が可愛いのは事実だから。


雪菜は何事もなかった様に静かに元の場所に戻り俺の顔を見て喋ってきた。

「で、妹さんの事そんなに好きなのに、そういう感情とかないの?」


さっきまでの感じではなく、真面目な感じで雪菜を見ながら、

「ないな。俺は兄妹の境界線を超えてはならない事ぐらいわかってる」


「…………ふ〜ん。そこだけはしっかりしてるんだ」

急にそう言って、雪菜は俺から目を背けていた。


それより今日はゲーム買って帰らないと。

雪菜ゆきな、今日の放課後、少しいいか?」


こう見えても雪菜の家はゲームを販売している。


種類が多く、ジャンルも色々なのが売っている。もちろん妹モノも結構多いのでいつもそこで買っている。年齢とか確認されないし。


雪菜は何故か顔を赤くして、驚いていた。

「ほぇ!? な、な、なんで放課後」


「いや、ここではちょと」

なんでって、お前がよく知っている事だろ? 店に行くと毎回、店のこと誰にも言うなって言ってるくせに。


「ここでは言えない!? そ、それは………でも」


「言っていいのか? こんなとこで」


それを聞くと、雪菜ゆきなは顔を真っ赤にして、辺りを気にして叫んでいた。

「ダメ! ここでは………放課後でも気持ちが………」


「………? まぁ、放課後言うから」

雪菜はそれを聞いた途端に、頭から煙を出して机に伏せて動かなくなった。

なんでだろ?

俺がゲームの話を学校でしたからか?

店の事は言ってないはずだけど。

偶にあるんだよな、雪菜が急に顔を赤くして、俺から距離を置いてくる事。


でも、雪菜ゆきなと結構、仲良くなったよな。

妹のことも知っている中になってるし。

確か、雪菜と話す様になったのは入学式からか………


入学式が終わって、教室に行って始めに喋ったのが雪菜だった。隣の席だったからなんだけどね。

その頃から、沙百合さゆりの事で悩んでいて、店を転々としていたら、そこが雪菜の店で「なんで!?」 ってなった事を覚えている。

あの時は2人とも数分間、動けなくなった事もあった。


その時を境に、ゲームを買いに行ったついでに沙百合の事や紅羽くれはの事も話した。

妹の変化とかも色々言っているから、それを聞いてくれる雪菜には本当に感謝している。


それから雪菜と目も合わせず一言も喋りかけないまま放課後になった。


「あれ? 雪菜ゆきなは?」

教室を見渡しても雪菜の姿はどこにもなかった。

どこ行ったんだろう?

さっきまで隣の席に座ってたのに。


俺は雪菜を探しながら下足場に行くと、そこには顔を真っ赤にして何やらブツブツ唱えている雪菜の姿があった。


「雪菜! やっといた」

走って雪菜に駆け寄ると、雪菜はビックっと跳ねた後、目を合わせずに俺の方を見てきた。


「は、速水はやみ! ど、ど、どうしたんですか!?」

お前の方がどうしたんだよ。

雪菜ゆきなだと有りえない敬語になってるし。

なんかしたか俺?


「それで雪菜に言いたいことが………」


雪菜は俺の顔に向かって、手を出してきて叫んでいた。

「待ってください! まだ心の準備が………」


「いや、心の準備って。そこまでの事か?」


「えぇ!? 私の気持ちは関係ないんですか!?」

………なんか会話が合ってない気が。

雪菜の気持ちってなんだ?

良い妹ゲームが知りたいだけなのに。雪菜って実は妹、嫌いだったのか?

それだと俺の敵だ!


雪菜が急に真っ赤にしながらも俺の目を見て話してきた。

「そ、そのちょと時間をくれませんか?」


「いや、ムリだ。今日やりたいから」

妹をいかに攻略するか、勉強しないと仲良くなるなんて無謀だから。

早く喋れる様になったら良いんだけど。

しかし、主人公達ってみんな勇気あるよな。俺にあんな事は絶対にムリだ。これより関係が悪化して部屋から出なくなったりしたら、俺、首吊っちゃうよ。


雪菜は俺の耳元で大声で顔を真っ赤にしながら叫んでいた。

「今日やりたい!?」


「え? 今日やりたいのは当たり前じゃないか? 勉強にもなるし」


「べ、勉強!? ……………速水はやみって強引だったの!」

勉強だよな? 妹攻略の。

強引って、強引にできないからエロゲーで頑張ってるんだよ。


ブルブル震えながら、雪菜は小動物みたいに見つめて話してきた。

「本当に………速水はやり……たいの?」


「当たり前だろ! さゆりと仲良くなるには妹モノのエロゲーしかないだろ!」

今更、何言ってるんだ?

妹モノをやらないで何をやるんだよ。


さっきまでの赤くなっていた雪菜ゆきなが、急に怪しい表情をして口を開いた。

「は? えっと何言ってるの?」


「は? 雪菜こそ何を言ってるんだ?」


「「はぁぁぁぁ!?」」



俺たちは話が逸れていたことに気づいて、どちらも真っ赤になっていた。

「「…………………」」


「な、なな、何考えてるんだ雪菜は!」


「は、速水こそ朝から分かりづらく言って!」


「いや、俺が放課後っていたらゲームのことって分かるだろ!?」


「もしかするとって言う可能性もあるじゃない!?」


俺の言い方が悪かったかもしれないが、あんな風に理解するってことあるのか。

まず、俺が雪菜にそんなこと言うなんてありえない。

確かに、雪菜は普通に美少女だ。

色々な男子から告白されてるって話だったはず。


雪菜は可愛いそこは認める。だが沙百合よりは可愛くはない。この世界で可愛いのは沙百合と紅羽の妹だけだ。


てか、なんで雪菜はあんな解釈したんだよ、すごい話しにくくなってるじゃないか!

それでも俺は、さゆりを想像して勇気を出し喋った。

「それで話したいことがあるんだけど」


「……………ふん!」

雪菜は頬を少し赤めて、俺が話した瞬間に逆の方を見てしまった。

なにその反応、ツンデレなんですか?

ツンデレだったのか!?

いや………デレてはないか。俺の思ってた通り、雪菜はツンしかないのか。


雪菜は目を逸らしていたが、少し経つと俺の方をチラチラ見ていた。

雪菜ってこんなにめんどくさかったか?

まぁゲームって言ってなかった俺も悪いが。


雪菜ゆきなは顔を真っ赤にしながら、顔を逸らしたまま、俺に話しかけてきた。


速水はやみは……私の事なんて……どうでもいいよね」


「なに言ってんだよいきなり、大事に決まってるだろ!」

雪菜がいないと妹モノのエロゲーが買いにくくなるし。

それに雪菜がオススメしてくれる奴は俺が好きな奴ばっかだから。大事に決まってるだろ普通に考えて。


雪菜は顔を真っ赤にして、驚きながら、

「ほぇぇ!? 大事なの私!?」


「大事って言ってるだろ」


「でも、………可愛くない……ですよ私?」


「なに、その俺が可愛いものしか大事にしてないみたいな言い方!?」


雪菜は首を傾げながら、

「違ったの?」


「違うよ! 断じて違う! それにお前だって十分可愛いだろ?」

沙百合さゆり紅羽くれはよりは可愛くはないが。


それを聞いた雪菜が急に耳まで真っ赤になって慌てながら、

「はぅ!? わ、わわ私が可愛い? 速水が私を可愛いって言った? はぁぁぁ!?」


「いや、そんな驚かれても。普通に雪菜は可愛いと思うぞ?」


「べ、別に速水にそんなこと言われても嬉しくないもん!」

なにこのセリフ。やっぱりツンデレなの?

雪菜のキャラがだんだんわからなくなってきたぞ。こいつ、こんなんだったか?


「あ、嬉しくないならもう言わなくていいか!」


雪菜は頭をブンブン横に振りながら、

「う、嬉しいか、嬉しくないかなら、少しは嬉しいです」


「少しなら言わなくても………」


雪菜は照れながら俺の前で叫んだ。

「嬉しいです! ものすごい嬉しい! 速水に言われると凄く嬉しい!」


「あっそう」

雪菜は可愛いけど、これ言うとこんな事になるとは。雪菜って俺の事どう思ってるの?

ま、雪菜なんかより、沙百合と紅羽の方が100倍、可愛い。てか、雪菜に言われるより、妹に言われたいんだけど。


「それより。放課後、話すって言った事、話していいか?」


雪菜は首を傾げながら言った。

「はい? 放課後? なんですか?」


「いや、さっきまでその事で話してただろ!?」


「えっ!? 私が可愛いって話じゃなかったの?」


「違うよ! お前はどんだけ嬉しかったんだよ!?」


雪菜は顔を緩めながら、

「さっきも言った通り、凄く嬉しい………速水はやみが言ってくれると」

いきなりなんてこと言うのかな。

少し、ドキッとしてしまったじゃないか!


「そ、それはいいとして。言いたかったのは、お前の店に今日行くからって事を言いたかっただけなんだよ!」


驚いた表情をして、

「そ、そんな事だったの!?」


「あぁ、妹モノのオススメを教えて欲しくて」


「『お兄ちゃんなんて大っ嫌い』はどうしたの!?」


「クリアーしたぞ? 妹はいいな!」


「あんた、日に日にエロゲーを攻略するの早くなってない!?」


「そうか? 沙百合と仲良くするためと思うと凄く早く終わってな」


顔を真っ赤にして、さっきまで喜んでいた表情を変えて、

「………結局、妹なのね。……………このシスコンめ!」

俺ってシスコンだったの?

妹を大好きなのは認めるけど。


「なんで雪菜はそんな怒ってんだよ!?」


俺から目を逸らして、そっぽを向いて叫んだ。

「…………怒ってない!」


「怒ってないならいいんだけど。だから店に行くからオススメを教えてくれないか?」


「………ふん!」

うわー、完璧に怒ってるよ。

怒ってないとか言って、すごい真っ赤になってるし、拳が震えているんですけど! そんなに怒ることしたか!?


雪菜ゆきなは一回ため息をついた後、いつもの感じに戻って、

「はぁ………わかった! オススメの妹ゲームを教えるから行くよ!」


「ちょ、お前!」

勢いよく俺の手を引いて、店の方に向かって雪菜は歩き出した。

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