第十三話 憩いの宴
『キャンプ、ですか……?』
中央都市エリアルでの戦闘が全て終了した後、すぐにマーシャルにトラビナ西部第一基地の司令室に呼び出されたナツリは、上司の口から出た思わぬ言葉に意表を突かれたように何度も目を
『ここ最近色々あってずっと働き詰めだったろう? たまには外で遊んで息抜きでもしてこい』
いつも通り司令席に悠然と居座るマーシャルとは裏腹、ナツリは不安げに本音を洩らす。
『で、でも……いいんですか? もしかしたら、すぐにでもまた
『なぁに、奴らもこれまでこちらが手も足も出なかった存在の四機天王の一角をついに崩されたんだ。そう安易に次の行動には移れないだろうさ。お前とレインがエリアルを一日空けるぐらいなら、それほど特に問題はない。その辺のところは私とスレッドに全部任せて、今回の戦いの功労者であるお前たちはせっかくの休みを満喫してこい』
いつになく彼女らしからぬことを口にし、マーシャルは打って変わって表情を真剣なものに切り替えた。
『すでに決戦の日は近い。この休暇がお前たちの最後の休息になるだろう。これは心優しい上司からの命令だ』
締めの一言だけはどうしても納得いかなかったが、ナツリは彼女から三日間だけ貴重な休暇を与えられたのだった。
『すみません、私からも一つお願いしたいことが……』
最後に少女が神妙な面持ちで話を切り出したのは、今後のレジスタンス——ローンウルフの処罰の件についてだった。
基地の留置場を脱走した彼らは、貴重な軍需品を格納庫から無断で勝手に持ち出したのだから、当然その罰を否が応でも受け入れなければならない。加えて基地内の兵たちが何人か負傷していたらしく、彼らの証言から被害を受けたのは少女だったと言うので、おそらく
だが、ナツリは今回の一件をどうにか不問にしてくれるよう、マーシャルに必死に頭を下げて申し出た。ここでまた無闇に
どこまでもお人好しな少女に、さすがに諦観したのかそれとも単に呆れられただけなのか、マーシャルはすっかり疲れたように深く嘆息した。
一応考えておく、と一言だけ言い残し、彼女は足早に司令室を後にしたのだった。
∞
機暦二二五三年 七月二十八日
中央都市エリアルでの激動の一日を終えた翌日。
早朝からベースキャンプの小さなテント内でナツリは、普段着ている軍服や白衣とは違ったロゴ入りの白Tシャツとデニムショートパンツ、黒のレギンスという新鮮な私服姿で
「水筒に食料に、テントに虫除けスプレーにっと……」
必要な物が入っていることを一通り確認し、ナツリは肩越しに後ろを振り返る。
「二人とも、用意はできたかしら?」
昨日の疲れを全く感じさせない快活な声でそう言って、今も忙しなく身支度中の少女に
「はい! こっちはいつでも準備万端です!」
トラビナ基地の
その一方で、レインは地面に敷かれたインナーマットの上で
「あいにくと俺は特に持参する物がないのでな。最初から何も支度する必要はない」
「あらそう。でもその分余裕が有り余ってるあんたには、重い荷物をたくさん背負ってもらおうかしら」
「……それはいつものことだろう」
ナツリの手厳しい言葉に、青年はふて腐れた顔でぼそりと愚痴を洩らす。
すると、ティアがふと思い出したようにナツリに訊いた。
「そういえば、スレッドさんはキャンプに誘わないんですか?」
「あー……残念だけど、今回彼は留守番よ。私たちがいない間、万が一に備えて四機天王やレイスロイドたちからエリアルを護ってもらわなくちゃいけないから」
その件について昨日後々トラビナ基地の司令室にいるマーシャルからベースキャンプの管制室代わりのテントの中で知らされた青年は、「どうして俺だけナツリちゃんたちの水着姿が見られないんだ!!」と地面に突っ伏して欲望丸出しに叫びながら、恨み節のようにひたすら嘆いていたが。というか申し訳ないことに、そもそもこちらは水着を着る予定など更々ないのだが。
「それで今日一人、私から誘いたい子がいるんだけど、ちょっといいかしら?」
ナツリの意外な提案に、レインとティアは小さく首を傾げる。
キャンプの支度を全て終えた三人が早速足を運んだのは、軍専用のベースキャンプのすぐ隣接したところにあるレジスタンスたちのテント群だ。
その中のうちの一つの、少女が使用しているテントに入る。
「——セッカ、起きてるかしら?」
すると次の瞬間、ナツリの目に飛び込んできたのは刺激的かつ
胸と下半身以外の褐色の肌を惜しげもなく露出したセッカが、申し訳程度に膨らんだ胸部にちょうど黒のスポーツブラを着けようとしているところだった。
「なっ……」
ナツリは思わず絶句すると、泡を食ったように慌てて平謝りした。
「ごごご、ごめんなさい! 何も言わずに勝手に入り込んじゃって!」
「そうだな。入る時は一声かけてくれると助かる。まあ別に見せても何も減るもんじゃないが……」
やんわりとそう言って、セッカは少女の傍らにいたレインにちらりと視線をずらし、彼とぴったり目が合う。
「や、やはり男に見られるとどうにも恥ずかしい。着替え終わるまで皆外で待っててくれ」
女の子ならそれも当然のことで、ナツリたちは一旦テントの外で彼女を待つことにする。
数分後、入っていいぞ、とすぐに中からセッカの男勝りな声が聞こえてくる。
三人が再びテントに入ると、亜麻色のポニーテールの少女が昨日と同じ黒のタンクトップとベージュのショートパンツの服装に着替えていた。
「それで、今日は一体どうしたんだ? そんな私服に大荷物なんか持って。これからどこか遊びにでも行くのか?」
「ええ。ちょっと近くの森までキャンプに行こうと思うんだけど、せっかくだからセッカも一緒に来ないかしら?」
ナツリは愛嬌のある笑顔で彼女にお誘いの言葉をかける。
しかしそれに対し、セッカは未だ
「……悪いが私はいい。正直まだ、そんなにはしゃげるような気分じゃないんだ……」
その本音を聞いたナツリは、たちまち
つい昨日、彼女はこの二年間ずっと苦楽を共にしてきた仲間の大半を、勝てもしない一方的な戦いによって一瞬で
すると突然、ティアがそんな彼女の手を両手でぎゅっと握る。
「セッカさんも一緒にキャンプに行きましょう。きっといい気分転換になると思いますよ」
「君は……?」
思わず戸惑いの表情を見せるセッカに、ティアはうっかりしていたようにすぐに胸に手を当てて答えた。
「も、申し遅れました。私、レイスロイドのティアと言います。先日レインさんとナツリさんに命を救われて、今は軍の皆さんに暴走したレイスロイドたちから
「君も、レイスロイドなのか……」
さすがにセッカは驚きを隠せない様子で茫然と声を洩らす。
まあ、その反応は無理もない。この愛くるしい少女が人型機械であるレイスロイドだといきなり言われても、にわかに信じられないのが普通だろう。ここまで人間に近いレイスロイドを見たのは、その道の研究を続けてきたナツリでさえもレイン以来初めてだったのだから。
そんな天真爛漫なティアに
「彼女もそう言ってるんだし、今日ぐらいお言葉に甘えてもいいんじゃないかしら?」
優しさに溢れた彼女の提案に、セッカは心なしか救われたような微かな笑みを口許に滲ませる。
「皆……ありがとう……。こんな私でも参加していいなら、遠慮なくそうさせてもらうよ」
一日だけキャンプに行くことをレジスタンスの仲間たちに断りを入れた後、レインのクルーザーにティアを、ナツリのオフロードバイクにセッカを乗せて、四人は早々にエリアルを出発した。
一行が向かったのは、ここから少し離れた北東の荒野に広がる巨大な原生林地帯だ。マーシャル曰く、そこに流れる大きな川が特別綺麗らしく、キャンプには実に持ってこいの場所だという。アウトドアとは到底無縁そうな彼女がなぜそんな穴場情報を知っているのか、野暮なことは敢えて訊かなかったが。
小一時間ほどひたすらバイクを走らせると、こんもりと幅広く連なった新緑の木々の群れをようやく視界に捉える。
そこに勢いよく進入した途端、まず不協和音のような
節くれ立った木立の間を縫うように走行しながら荒れた獣道を颯爽と通り抜けると、その先の雄大な光景を見たナツリとレインは、すぐにバイクを急停止させる。
彼らの前に突如出現したのは、大地を横に真っ二つに引き裂いたような巨大な渓谷だ。
対岸までは差し渡し十メートルほどあり、それと同じぐらいの高さの深い谷底には川の激流が森林地帯を貫いて果てしない先まで続いている。谷には元々吊り橋が架かっていたようだが一体どこの誰がやったのか、無惨に半ばから壊されているため向こう岸に移動できそうな場所は付近には見当たらない。
ナツリは少し困った様子で首を捻る。
「うーん……残念だけど、向こうに渡れそうなところはこの近くにはなさそうね。迂回して別の道を探しましょ」
先ほどから後部座席で無言のままどこか浮かない顔をしているティアに、レインが気にかかったように声をかける。
「一体どうした?」
「い、いえ、なんでもないです!」
少女は慌てて空元気のような反応を見せるが、彼は訝しげに小首を傾げる。
ナツリとレインは再びバイクを勢いよく発進させると、延々と続く
すると、少し進んだところでひとまず対岸に渡れる道を発見する。
そこを通り再度森の中に進入。さらに緑陰の奥へ進むと、バイクの端末画面上の進行ルートを示す青いラインが急にふつりと途切れたので、ナツリは後ろから追随してくる青年に一声かける。
「ちょっとストーップ!」
彼女に次いで、レインもすぐにバイクを停止させる。
「多分この近くに川があるはずなんだけど……」
少し不安げにそう言って、ナツリは端末のデジタルマップをちらちら確認しながら、群生した木々に囲まれた周辺をぐるりと見回す。
「……ん? ——あったあった」
彼女が視線の先に見つけたのは、山の緩やかな斜面のすぐ下を流れる小さな沢だ。
耳心地の良いせせらぎを美しく奏でながら、
ナツリたちはバイクのエンジンを切ってシートを下り、ここから先は徒歩で滑らないように慎重に斜面を下る。周囲に生い茂る草木を次々と掻き分けながら、臆することなくどんどん前へと突き進む。
そして、ティアが湧き立つ高揚感を抑え切れないように真っ先に
「うわあ……!」
得も言われぬその爽快な景色を見た瞬間、少女は思わず感嘆の声を洩らす。ナツリたちも彼女の背中を追って後から出てくる。
風光明媚な大自然の緑豊かなキャンバスを背景に、真夏の木漏れ日を煌々と反射させた大きな川が下流に向かってどこまでも流れていた。
肺一杯に空気を吸い込めば乾いた荒野とはまた違う潤ったそれと
「どうやらマーシャルさんが言ってた場所はここみたいね。とりあえず早速テントを張りましょ」
ナツリがキャリーバッグからテント用具を取り出し、皆で設営を開始する。
川原の平らな場所にまずファミリー用のインナーテントを広げ、骨組み用の穴の中に細いポールを通していく。次にハンマーで地面にペグを打ち込み、予め張っておいたテントの四隅と繋いでしっかりと固定する。さらにフライシートをテントの上から被せて二十分ほどで手早く張り終えると、後はアウトドアテーブルと椅子も一緒に外に広げてようやく設営完了だ。
「さて、テントも張れたことだし、本日のメインイベントの魚釣りに行くわよ」
トラビナ基地から持参してきた釣り道具一式を両手に持ち、ナツリは川のほうに足を向けようとする。
しかし、レインだけはすでに青いメッシュ素材のリクライニングチェアにのんびりと深く背を預けながら、まるでナマケモノのようにその場から動こうとしない。
ナツリはあからさまに不満な顔をして声を尖らせる。
「ちょっと、せっかくなんだからあんたも一緒に来なさいよ」
「俺はここで見張りをしている。お前たちだけで楽しんでこい」
こんな滅多にない休日でも頭の中は結局仕事のことばかりで、レインはいつも通り一人寂しく孤立しようとする。ここまで捻くれた性格となると、こいつ実は根っからの天の邪鬼なんじゃないかとさえ思えてくる。
するとそれを隣で見兼ねたように、ティアが彼の手をさっと両手で握る。
「せっかくの楽しいキャンプなんですから、レインさんも一緒に魚釣りしましょう?」
「…………」
天使のような純粋無垢の笑顔にさすがに冷たく断ることなどできなかったのか、青年は潔く観念したように小さく嘆息した。
「しょうがないな。少しだけだぞ」
「はい、よろしくお願いします!」
屈託のない笑顔をぱっと咲かせ、ティアは快活な声で応える。
「——おーい皆、早くこっちに来なよ!」
先に川のほとりに移動していたセッカが、こちらに手を振りながら大声で呼びかけてくる。
ちょうど全員揃ったところで、ナツリたちもすぐに彼女のもとに向かうことにする。
一行が足を運んだのは付近の大きな渓流だ。目と鼻の先には透明感のある清らかな天然水が今も激しく流れており、ここなら何かいい魚が釣れるかもしれない。
ナツリは運んできた三人分の釣り道具を川原に広げ、皆で早速準備を開始する。
釣り具は太い園芸用支柱の先端に釣り糸を結び付けただけの手頃な竿で、餌は今の困窮した時代に普通に食されている肉厚の食用ミミズだ。正直この簡易道具一式で魚が釣れるとは到底思えないが、何事もまずは挑戦だ。
ナツリは竿の糸に結びつけた釣り針に、新鮮な生き餌のミミズを特に躊躇もなく刺していく。
それを傍らでじっと見ていたティアが、今にも目を背けたくなるような顔でおずおずと訊いてくる。
「そのミミズさん、餌にしちゃうんですか……?」
「そうね。今日の私たちの食料のために尊い犠牲になってもらうわ」
彼女の口からあっさり飛び出た酷な言葉に、ティアは如何にも辛そうに肩を落とすと、つい本音を口にした。
「正直、なんだか可哀想です……」
すると、隣からセッカが彼女の肩にポンと手を置く。
「そうだな。今日の食料を確保するために他の生き物たちの命を奪うというのは、確かに理不尽な行為だ。でも私たち人間は、今日も何かを
彼女の思いやりのある言葉に、ティアは指に摘んだミミズを見詰めながら複雑そうな顔になる。
そのやり取りを傍から見ていたレインが、はあ……と特に隠す様子もなく面倒くさそうに嘆息する。
「ちょっと貸してみろ」
少女から竿とミミズを勝手に取り上げ、青年は釣り針に遠慮なくミミズを突き刺す。
事もなげに餌を付け終えると、ぶっきらぼうに竿を差し返す。
「ほら、できたぞ」
「……! あ、ありがとうございます……!」
不器用な彼なりの優しさに頭を下げて感謝し、ティアは晴れやかな笑顔でそれを受け取る。
ひとまず全員準備が整ったところで、早速魚釣りを開始する。
ナツリとセッカはそれぞれ別々で、ティアはレインと一緒に釣りに興じることにした。鞭をしならせるように思いきり竿を振って川に餌を投げ入れ、あとは獲物がかかるまで気長に待つ。
しかし、いくら待っても一向に魚が食いつく気配がないまま、無為に半刻が経過した。
「……ある程度予想はしてたけど、やっぱりてんで釣れないわね……」
「……ここは意地でも今夜のおかずを一品増やしたいところなんだが……」
開始数分ですぐに足が疲れたナツリとセッカは、川の上流沿いの岩場に座り込みがらすでに半ば諦め気味に愚痴を洩らしていた。
正直、魚釣りがこんなに根気の必要なものだとは思わなかった。
いくら運が悪くてもさすがに一匹ぐらいは釣れるだろうと楽観視していたが、目の前の竿は川の流れにただ揺られるばかりでぴくりとも反応を見せない。こんなことならせめて本の一冊でも持参すればよかったと今更後悔しながら、ナツリは肩越しにちらりと後ろを振り返る。
いつの間にか川原に運んでいたリクライニングチェアに退屈そうに腰掛けながら、レインがこちらの様子をじっと見守っていた。自分のすぐ隣ではティアだけ相変わらず楽しそうに釣りを続けており、如何にも無邪気で可愛らしい。
——まあ、いっか。
ナツリはひっそりと胸中でそう思う。
今は、皆と一緒にいれるだけですごく楽しい。ずっとこのまま仕事のことなど全部忘れて夢中で遊んでいたいが、こんなに幸せな時間がいつまでも続くとは限らない。だから今は少しでも後悔しないためにも、この
少女が微笑ましく、何ものにも代えがたいその眩しい光景を一人眺めていた時だった。
「——れ、レインさん、引いてます!」
不意に、
「ああ、任せろ」
レインはあくまでも落ち着いて椅子から立ち上がると、彼女と一緒にしっかりと竿を握る。
ここですぐにでも釣り上げたくなるところだが、もう一度竿が引っ張られるタイミングを充分に見計らう。水面に糸が走るように左右に激しく暴れ回りながら、ひときわ強く水中に引き込まれた瞬間——。
「今だ、引け!」
「はい!」
レインの力強い合図とともに、ティアは一気に竿を引き上げる。
直後、水面から白銀の鱗を纏った三十センチほどの大振りの魚が勢いよく飛び出し、白日の下にその煌びやかな姿を現す。
上手に釣り上げた灰緑色の魚を、レインはそのままティアのほうに落ちないよう慎重に運ぶ。活きがよく飛び跳ねるそれを、彼女の両手にゆっくりと乗せる。
「うわあ! ぴちぴちのお魚さんです!」
「すごいわね。どれどれ……」
ナツリは腕時計に備え付けられた画像認識カメラ機能で魚を撮影し、その種類を詳しく調べる。
ピピッ、という短い電子音とともに、腕時計の端末にその魚の情報が詳細に表示される。どうやら《
結局その後も、レインとティアがもう一匹鮎を釣り上げたところで全員魚釣りには満足したので、続けてキャンプでもお決まりの水浴びに移行した。
女子三人組は私服姿のまま川に飛び込み、水の掛け合いや素潜りなどたわいもない遊びを楽しんだ。今日も炙られるような炎天下ということもあり、氷のように冷たい水は身に染み渡るほどに最高に気持ち良かった。もし思春期の男子がこの少女たちの華やかな光景を見れば本来飛び跳ねて喜ぶところだろうが、彼女たちの水浴びにも一切興味を示さないレインは、相変わらずアウトドアチェアの上で暇を持て余していた。
無我夢中で遊んでいるとすっかりお腹も空いたので、ナツリたちは少し早いが昼食の準備を始めた。
今回作る料理は、キャンプの定番メニューでもあるカレーと魚の塩焼きだ。ナツリとティアはトラビナ基地から持参した貴重な人参とピーマン、じゃがいもと玉ねぎをふんだんに厚切りにし、それらを
皆初めての作業になかなか手間取っていたが、それでも最終的に料理の見映えはいい感じに仕上がった。アルミ皿にご飯をよそってカレーのルーをかけ、炙った鮎の塩焼きを最後に添えれば完成だ。あとは味次第だが……。
薄く湯気を立ち上らせた熱々の料理がテーブルに並んだところで、女子三人組はそれぞれ席に着いて行儀よく手を合わせる。
「いただきます」
ナツリとセッカは金属スプーンを手に取ると、まず緑黄色野菜の色映えの美しいカレーを口に運ぶ。
「ど、どうですか……?」
ティアがどきどきしながら、テーブルに前のめりで少女たちの感想を待つ。
果たして、二人はカレーを喉に通した瞬間、パッと花が咲いたように顔から思わず笑みがこぼれる。
「うん、すごく美味しいわ」
「ああ……。こんなに旨いもの、久しぶりに食べた気がする……」
続いて焼いた鮎にも
彼らの絶賛の言葉に、ティアは満足げに口許を綻ばせる。
「ふふっ、それはよかったです。お二人の幸せそうな顔を見てると、たくさん美味しい食事を摂れることがなんだか私も羨ましくなってきます」
少女の口から自然と出てきた本音に対し、ナツリは顎に手を当てて少し考える。
「そうね……。人間と同じように、レイスロイドにも食を楽しめる機能があってもいいかもしれないわね」
体内の炉心で発電した電力によって精密稼働するレイスロイドは、人間とは違い食物から栄養を摂取することを一切必要としない。悪い言い方をすれば、これまで時間的には無駄だったとも言える食事行動は全て省略されるので、彼らが食を味わえる機会も当然なくなるわけだ。もし今の戦争が終わりを迎えて日常生活にまた余裕ができれば、そういった新たな機能を追加開発してあげることも悪くないかもしれない。
その後も少女たちは普段できないような会話をたくさん交えながら、
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