幕間 黒影

「——それで、ガンドロスはられたのか」


 四方八方隅々まで薄闇に満たされた全面金属の大空間に、くぐもった男の声が厳然と響き渡る。


 その低い機械音声の主は、空間の闇に影法師の如く己の姿を深く溶け込ませながら、部屋の中央で青白い燐光を淡く発する巨大な水晶柱の前に凝然ぎょうぜんと佇んでいた。


 中央都市エリアルの戦場からすぐに帰還し、早々に彼に戦況報告を終えた真紅のレイスロイド——オズは、未だに信じがたいような口調で話を続ける。


「ああ。俺たちと同じ戦闘特化型の高性能レイスロイドだった。人間じゃ不可能な身体能力を有してたからまず間違いない。一体どんな手を使ったか知らねぇが、たった一人であのデカブツをブッ潰しやがったんだ。しかもそいつの姿、信じられねぇことに——」


 すると、彼女の口から思わず耳を疑うような言葉が飛び出した。


二年前の﹅﹅﹅﹅創世の日﹅﹅﹅﹅に俺たちと戦った﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅あの青い装甲のレイスロイド﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅と瓜二つだったんだよ﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅


「…………」


 はっきりと動揺を見せることはないが、さすがに黒影は虚を衝かれたように沈黙する。


 その鈍い反応に対し、オズは胡乱うろんげに眉間に皺を寄せる。


「……お前、あの時にあいつ﹅﹅﹅と一緒にブッ殺したんじゃなかったのか?」


「ああ、確かにこの手で消した。それが生きているということは言うまでもなく有り得ないのだから、お前の単なる勘違いか、あるいは未だ成仏しきれない奴の亡霊でも見たのか」


 あまりに笑えない彼の冗談に、オズは心底呆れたふうに肩をすくめる。


「だといいけどな。ありゃどっちにしろ、これから俺たちの計画の脅威になるだろうぜ」


「ふむ。こちらの貴重な戦力と重要拠点を喪失したのは想定外の痛手だが……まあいい。あとは俺から上に全て報告しておく。——エステアはいつも通り定位置に戻れ。それとお前はこれ以上汚名を着せられたくなければ、今度こそ奴らを根絶やしにしろ」


 へいへーい、とオズは特に反省した様子もなくきびすを返してひらひらと手を振りながら、純白のローブに身を包んだもう一人の少女とともに部屋から出ていく。


 彼らの背中を静かに見送り、黒影は背後にそびえ立つ大結晶の四角柱に改めて向き直る。


「さあ、もうすぐお前﹅﹅の願いが実現する時だ」



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