第12話 傍観

おはようございますー。


病棟の扉を開けた瞬間にいつもと雰囲気が違うことに気づいた。


夜勤者は走り回っていた。


すでに出勤していた日勤者も出来る限りのことを早め早めに仕事を巻いている。


その慌ただしさと、スタッフの表情から誰かが危ないことは察しがついた。


なにかありました?


『1号室の100歳を超えた伊東さんが危ないみたい』


と師長はいう。


話を聞く限り、老衰に近い。


モニターの呼吸のアラームが鳴り響く。


人が亡くなる時に、医者、看護師、介護師が一体何を思い、感じているか推測したことがあるだろうか。


自分自身はもうなにも感じない人間になりつつある。


死は本来、誰にでもある。実は予想よりも近く、早くに。


ただ死に至るまでに発達した医療が手を差し伸べるのだ。


その結果、その手を握ったのが本人なのか、家族なのかも分からずに延命になる。


延命だけでその個人らしさは既に死んでいるのだ。


これがいまの日本なのだろう。


そんなことを、考えているうちに心電図モニターが心停止を告げていた。

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