第2話 バー
ハル
「先輩、辞めるんでしょ?」
直球ストレート。ハルの得意な持ち球である。運動部で鍛えられたハキハキした性格と相反するベビーフェイスはグラスを見つめながら言った。
ハル
「最近、先輩こそこそと自分の係りの仕事とか勉強会の資料をまとめたりしてますよね」
ハルは空気が読める優秀な後輩だ。仕事の覚えもいいが俺が高く評価しているのはこのコミュニケーション能力である。
しかし、今回はそれが仇となった。
『まぁ…来年も同じ係とはかぎらないからなぁ』
なんとか、切り返す。
ハル
「そですね。確かにそれもそう。
‥けど、一番分かりやすかったのは退院された患者さんたちの記録をまとめていたところです。いつも溜めて怒られていた先輩が最近、怒られていないことに気づきまして‥」
『‥‥』
少なくとも俺は先輩である。
ハル
「退院される患者さんたちの記録が退院前に綺麗に経過を書かれている。いままでそんなこと一度もなかったので疑問に思っていたんです。それに加えて‥今日の面談の長さ。他の先輩たちは10分程度だったのに、先輩は約30分。
‥先輩、辞めちゃうの?」
気のせいか、ハルの眼に涙が浮かんでいる。
俺は飲んでいたフルーツビールを一気に飲み干した。
『ハル、黙っててごめん。俺、退職するつもりなんだ。』
退職する理由を説明した。
ハル
「‥そういうことだったんですね。」
『あぁ…。まだ退職の日とかもろもろ決まってないけども自分の中ではもう決めたことだからさ。これ、内緒な』
ハル
『分かりました。ただ、退職日とか決まったら教えてくださいよ?送別会しないといけないですからね‼︎』
そう言い切るとハルは店員さんにビールのおかわりを注文した。
いい後輩に恵まれた。ハルから学ばせてもらうことも少なくなかった。
久々に美味しいお酒を味わえた気がした。
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