におい

焼きたてのパンの芳ばしいにおい。

気まぐれで買った線香の甘いかおり。

コーヒーカップから立ちのぼるかおりは

なんとなく苦みを含んでいて、

食器洗い用の洗剤はさわやかに柑橘がかおる。


組み立て中のラックは金属くさくて、

読まずに積んだままの本は 紙とインクのにおい。

僕の好きなにおい。


いろんなにおいに囲まれている生活の中で、

それでも君のにおいだけは特別で。

「柔軟剤のにおいじゃない?」

なんて君は笑うけど、

僕にとってはそれも君のにおいで、

自分の体に、君のにおいがしみこんだ日は

嬉しいような 恥ずかしいような そんな気分。


もっともっと君のにおいで満たされていたいけど、

ずっとずっと一緒だとなれてしまうから、

だから、今の距離感が心地よいのかも。

……なんて言ったら、

君はきっとほっぺたをふくらませて

しばらく不機嫌になってしまうんだろうな。

だけどそのあとは、やっぱり君のにおいに満たされて

特別で幸せな時間を過ごすんだろうな。



              ~におい~


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る