気まぐれ

大好きなものが大嫌いなものへと変わる瞬間

私はどうしようもなくて泣くことを我慢する。

今まで手の中にあったものがそこに収まるのを嫌がるから、

私はあきらめて次を待つ。

次があることなんて確かめもせず待ち続けるのだ。


そんな私に誰かが尋ねたらどうしようか?

「好きなものは?」

訊かれたら私はどう答えたら言いの?

私は一番近くにあるものを何の迷いもなく答えにするのだろう。

だから

大好きなものが大嫌いなものへと変わる瞬間がくるのだろう。


今の私の好きなもの。

空を行く雲。道端を流れる小さな川。

私の嫌いな人を馬鹿にしている他人。

「来るな」と願うと来なくなる人。

私のことなんて気にもせず盛り上がる友人たち。

私に気をつかう人。遠慮深い友人。

雲の隙間から見える空の青。

昼間に見える月。まんまるの月。下弦の月。流れ星。

布団をかぶって泣く私。

数字だらけの書類。漢字だらけの本。

誰もいない空間。ずっと昔の人の恋の話。

営業スマイルの映画俳優。

自分の意志を貫く遠い人。

誰かを大切と言える瞬間。

必死で覚えたナンバープレート。彼が飲んでいた缶ジュース。

銀色の懐中時計。

私をなぐさめてくれる手。大きな話。せつない話。

黒い車。それに乗っている彼。それを想う私。彼の大好きな歌。

意味のわからない文。狂った絵。きれいな瞳。かすれた声。

銀縁の眼鏡。

海の広がる岬。砂浜に集まる波の華。雪の積もった教会。

赤い屋根。たくさんの神話。

全てを否定する私。

これだけのものを嫌いになるなら

また同じだけのものを好きになれるだろうか?

これらと同じくらいに好きになれるだろうか?

永遠と言う言葉はあまり好きじゃないから、交代は否定しない。

いつか変わったらそれを受け止め、また手離すことをやめない。




                ~気まぐれ~


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