第2話 自分を大切にしろ、わたし。

「ぷはっ、はっ、はっ、はぁ。」

あれ、さっき目覚ましがなっていたのは6:30だったはず。今は、8:07。ってことは、遅刻。今日は何も急ぎの用はないけれど、8:30に職場につくのが私の仕事で、それに間に合わなかったことが過去何回あるか。大学6回生の時、最後の数ヵ月は何時に着いても良かったのに、朝早くからわざわざ駅を通って大学に通ってたのは、片想いをしていた後輩の姿を一目でも見たかったからだった。図書館で勉強したのも、その子に会いたかったからだった。仕事に遅刻しないなんて当たり前のことで、社会人の常識だってことくらい分かっている。それでも起きることができない自分は、どれだけ愚かで、責任感がなくて、人からの信頼をなくしているんだろうと思う。去年大学時代の先輩が言っていたことをこんな時に思い出す。

「1年目の冬に、疲れて家に帰って、大した仕事もできない上に家に帰って癒してくれる彼氏もいなくて、好きな人もいなくて、周りはどんどん結婚していく状況に気持ちが萎えちゃったことがあったなぁ。友達にはプチ鬱って言われてたけど、確かにプチ鬱だったと思う。」

いつも笑顔でなんでも笑い飛ばしてくれて、怒ると怖いその先輩のそんな姿を見て、不安になったのを覚えている。多分、その先輩の言葉を真似れば、11月からずっと「プチ鬱」が続いているんだと思う。全てがどうでもいいと思ってしまう。人に依存して、恋愛している自分がすべてだった学生時代が本当に楽しくて、彼氏が、先輩が、後輩が好きすぎて泣いていた日々とのギャップにやられて、自分を大切にできていないわたしがここにいる。

雪の中、間に合うことを諦めつつも少し速いテンポで、お気に入りの音楽を聴きながら、職場へ向かう。大文字山をうっすらと雪が覆って、大文字が白を背景に浮き上がっている。風情のある景色を背に仕事へ向かっている自分はとても好きだけれど、早速メイクとおしゃれの試練は達成ならず。すっぴんで髪型はボサボサで、まつげエクステは両目合わせて5本にも満たないだらしない姿とは、もうおさらばしよう。

朝ごはんを食べる時間はなくて、カフェラテが飲みたくてたまらなかったけど、今日は当番の日だから昼食まで我慢。知識を身に付けたくて一生懸命仕事をしてみるけど、なかなか上手くいかなくて、ただ雑用をしている感覚になってしまう。それでも少しは学べているのだと信じて、前に進みたい。

池田先生は、イケメンで背が高くて頭がよくて完璧なドクター。毎日一緒に過ごしているのに、好きにならないのはどうしてか私にもさっぱり分からない。でも、今日は肌に触れようと意識してみたけどさっぱりできなかった。昼食の唐揚げ定食を一緒に食べて、仕事へ戻る。

「山田さんってメンタル弱い系?」

ぎくっ。

「あ~私、ちょっと弱めですかねぇ。」

「え~ほんまにぃ?メンタル弱い人って、強い支えてくれるような人と付き合ってたり結婚してるときもあれば、時々パートナーもメンタル弱いときあるやん?ベストパートナーというか、むしろワーストパートナーやと思うねんけど、あれは恋愛じゃなくてただの依存やと思うねん。」

「はい、確かに。」

私は依存型の恋愛が好きで、かなり重めな女であることは自負しているし、ストレスがたまりやすくて、過食嘔吐なんかもしちゃうかなりメンタルが弱めな女である。でも確かに、依存し合うのはよくないかもしれない。私は支えがほしいのだ。

「池田君は、メンタル弱めの子にひっかかりやすいねんで。」

「そんなこと言うけど、俺はそんな子と付き合ってもどうも変わらんのやけどね。」

「そんなこと言うけど、気つけや~」

メンタル弱めの子にひっかかりやすいとか、私やん?と心の中で思う痛い女がここにおります。

仕事がはやく終わって、帰りによったコンビニでレジの店員さんからお釣りをもらうときに指が触れた。あっ、男の肌に触れた。違う。違うけど、これも第一歩ってことにしよう。禿げてたけど。

帰宅して、かに玉丼と月見大福を食べた後、菓子パンを2個食べて、ラーメンを我慢した。過食ってことは分かってる。部屋を少し掃除して、ジムで筋トレしてから自転車で汗をかいた。これで痩せるといいんだけど。ジムにはたくさんのおじさんとかっこいい男の子が一人、ぽっちゃりギャルが一人と私がいて、会話なくそれぞれがもくもくと鍛えていた。私はかっこいい男の子に見とれていた。頑張ったご褒美に、大垣書店で恋愛小説を自分にプレゼントした。帰宅後は、画像診断の勉強を少しして、SNSで元彼にメッセージを送ってから、お風呂に入っておやすみ。


メイク、おしゃれ、他人へのプレゼント、英語の勉強の達成ならず。明日からまた頑張って、自分を変えてやる。

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