2. 若葉と名乗るもの
その問いかけに俺は今世紀最大に困惑した。一時は目が凶器のようなもので殺されるかと思ったそのさっきは消えうせ、目の前には笑顔が映し出されている。
肩の荷が下りたぜまったく。
炎の持ち主は不思議そうな面でこっちを向いている。
「ねえ、聞いてる?」
俺はその問いかけにやっと反応することができた。
どうやら放心状態になっていたらしい。
「お、おう。すまん」
なぜ謝ったのだろうか。俺にもわからん。
「この私の炎に興味があるのかって聞いたんだけど?」
「興味って言われてもな、俺はつい偶然見ちまっただけなんだが」
そう言うしかあるまい。
興味などと言われても俺は答えることができんからな。
「じゃあなんで逃げたりなんてしたの?」
「それはだなあ、見てはいけないものを見てしまったという瞬時の判断から起こった行動だったからしょうがなかったんだ」
「見てはいけない? 別にそんな隠し事なんかじゃないよ?」
「え?」
じゃああの時、俺が逃げ出したのはなんだったんだよ。はっきり言ってただの無駄な行動だったじゃねえか。
「そうならそうと言ってくれたらよかったのに」
「言うも何もきみが危機感にさらされたような走りで逃げるからだよ」
無理を言うな。
あんなもん百人にやらせたら全員同じ行動をとるに違いない。
「逃げれたつもり、だったかもしれないけど意味なかったね。私の瞬間移動がある限り、ね」
だから息ひとつきらさずに俺の目の前に現れたってわけか。やられたな……。手のひらから炎、ついでに瞬間移動ね――って、え――――。
「おい、ということはお前は超能力者なのか?」
「なに? いまさら? 普通炎を目撃した時に気付かない?」
俺は気づいていた。いや、気づきたくなかったのかもしれない。
あくまでもみんなと笑いあい、楽しく活気のある高校生活の日常が俺の、個人としての理想郷だった。そこに何らかのファンタジー的な要素を入れたくなかったのかもしれない。しかし俺の目の前に現れた以上、しょうがないのかもしれない。
俺はその時、この世界の事情というものを受け入れた瞬間でもあった。
「てか、そんな簡単に正体をばらしていいのか? 俺は一切能力を持たない一般人だぞ?」
「いいと思うよ」
「なんでそんな曖昧なんだ?」
「なんでって、私のこれ、生まれつきよ?」
生まれつき? よくあるパターンの言い草にしか聞こえないのだが……。
「この能力に気付いたのはたしか5歳の時だったわ。いきなり手から火が出たのよ。さすがにびっくりしたけどね。その光景を見てから私の中では人間=能力者だったのよ。で、小学生の時よく一緒に遊んでた子に私の能力を見せたのよ。そしたらその子ったら泣きじゃくって逃げちゃったのよ。次の日学校に行ったらその子は転校したことになってたのよ。その出来事から私はほかの人とは違うってことに気づいてね……今まで隠してたの」
「まじなのか?」
俺は一方的に進められていた話を未だ信じられないと思っているかのような心持で話した。
「まじよ。だから君にこの姿を見られたときはしまったって感じだったけど今考えれば別に心配することでもなかったわ」
「なんでだ?」
「君の目、キラキラ輝いているからじゃない!」
俺の目が? キラキラしている!? 俺はこんな非常識な出来事に好奇心を抱いているとでもいうのか? ありえん!
「そ、そんなことあるか! 俺がそんな、超能力なんてもんを」
「君って思ったより意地っ張りなのね。うん……気に入ったわ。別に信じなくてもいい。お互い、一般人として……友達として……仲良くやっていきましょ」
「……そうか」
小声で話すその瞳には、涙……とまではいかなかったがとてもさびしげな感情が俺には読めた。人が持っているはずのないものを所持している者を見てしまうと誰だって信じることはできないであろう。俺もその一人だ。
しかしだ。改めて考えると、その特別な存在になっちまった人は、だれにしても周りの人々、生活から浮いた存在になってしまう。悩めば悩むほどその人の精神は雪崩のように粉々になってしまう。そのような存在でこの世に移住しているやつが今目の前にいる。そんなやつをほったらかししていていいのか? と必死に自分に問いかけた。
そんな生活にうんざりしている人だって山ほどいるかもしんないってのに俺はなんて行動に出ちまったんだろうか。
今なら間に合うだろうか。
俺はその場を立ち去ろうとする女性の肩を自らの手で引き留めた。
「すまない。俺が間違ってた。なんていうかそっちの考えも聞かずに俺の身勝手な行動でこんなことにはしたくない。超能力も単刀直入に言うとまだ信じきれない。でもな、徐々に知りたいと思ってるんだ。だからさ、楽しませてくれよ、お前と一緒にさ」
言いたいことはすべて言った。これが俺の本音といってもいい。
俺は好奇心を抱いていたのだ。
「……」
返答なし。やはり無茶な論説だったかな――と思っていたのもつかの間のことだった。
「そう言ってくれると思った。これからよろしくね。これからエキセントリックな日常をお届けするわ」
「お届けねえ……」
いかにもそれらしい言葉だ。エキセントリック……どこかで聞いたような気がするが、まあいいか。これから忙しくなりそうだ。
「でも君って新入生なのよね。私は二年だから行動時間が限られるけど」
「なんとかなるんじゃないか? それかそっちが留年してくれれば済む話なんじゃないのか?」
「な、なんてことを言うんだ!」
「ははは、冗談冗談。時間と場所はできる限り確保するようにしとくよ」
「なんだ、脅かさないでよね」
他愛もない時間はだんだん過ぎていった。なぜかこの人と過ごしていると周りの時間はそれに逆らうかのように立っていく。なぜなのだろうか、まあ誰もがわかっていることであろう。
俺は楽しんでいたのだ。この空間で、ほかの誰よりも、はるかにだ。
「そういえば、お前の名前、聞いてなかったな」
「そうですね、じゃあ君から教えてください」
「俺は
「了解! トッシーか、いい名前ね」
「お
言い忘れていた。この女性には友達はいるがあまり多いとは言えないらしい。俺はそのうちの一人になった。これからどんな生活が待っているのだろうか。少し楽しみでもある。俺の想像していた日常とはかけ離れているがこのようなものも悪くはない。この高校生活を心の底から楽しもうと改めて誓った。
「私は
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