Bullet:3




 「改めて自己紹介をしようか。

 初めまして、カナタ君。私は君の父の友人で姫咲 豊きさき ゆたかという」


 「その妻の姫咲 由江きさき ゆえです。私もカナタ君のお父さんのお友達なのよ」


 「父の友人ですか。それはその、何と言うか……親子共々、ご迷惑をおかけしました」


 あの・・親父の友人だと言うのなら、絶対これまでにいくつものトラブルに巻き込まれ続けてきたに違いない。俺も早速やらかしちまったけどな。


 「ハハハ。いや、構わないよ。昔は巻き込まれる度に“今日こそは殺してやろう”と何度も思ったことだが、今思い返すとなると……うん。何だかんだで良い思い出になってるよ」


 「フフフ。そうでしょうね。修学旅行先の旅館の女湯に堂々と入れたんですもの。とっても良い思い出になったでしょうねぇ」


 ワォ。


 「ちょ、いや待て、何度も言うがあれはあの馬鹿に騙されただけなんだ! そのせいで私は最終日まで旅館の自室で反省文を一日中書かされる羽目になったんだぞ!」


 「お父様……」


 「紫亜っ?! お前も蔑みのそんな目でお父さんを見るんじゃない―――クソッ! ちょっと話題に出しただけでこれか! 本当にロクでもない男だなアイツは!」


 「全く持って同感です。後で一発ぶん殴っておきますよ」


 「おぉ、カナタ君っ……! 頼んだよ! 思いっ切り! 思いっ切りやっちゃってくれ……!」


 あぁ、やっぱ親父アイツは昔からどうしようもない人間だったんだな。出来れば知りたくなかったけどな。


 そうして一先ずは落ち着いたのか、豊さんは咳払いをするとお嬢様の方へ視線を向けた。


 「―――ふぅ」


 父親の意思を悟ったお嬢様は、小さくため息をつくと俺へと向かい合った。


 「娘の紫亜しあです。よろしくお願いしません」


 「何だそりゃ」


 「言葉通りの意味ですけど何か?」


 ツンッ、とした態度でそんなことを言われる。嫌われたもんだね。豊さんと由江さんも苦笑いしてるじゃねーか。


 「はぁ……お前という奴は。

 済まないねカナタ君。娘はこんな性格なものでね、これまで友達も満足に出来た試しも無いんだよ」


 「そうなんですか……ボッチなんだな、お前」


 「孤独ボッチじゃありません。孤高クールなだけです」


 友達がいないのは本当なのな。俺ですら少ないけどちゃんといるってのに。


 「でも良かったわね紫亜ちゃん。カナタ君は明日から同じ学院に入学するのだから、もう“ぼっち”じゃなくなるわよ」


 「え?」


 へぇ。お嬢様―――紫亜も俺と同じ学校に入学するのか。それとお前、さっき「えっ」って聞こえたぞ。そんなに俺が入学出来たのが意外かよ。どんだけ馬鹿だと思ってんだか。

 だから紫亜を睨み付けてやろうとして―――少し様子がおかしい。まるで“冗談にすらなってない冗談”を聞いたようなかのような表情を見せていた。


 「お母様? 何を言っているのですか? そんな訳ないじゃないですか」


 「とことん失礼な奴だなオイ。確かに成績優秀って訳じゃないけどよ」


 「いえ、貴方の成績がどうこうという意味ではなく、明日私が入学するのは女子校なのですよ」


 「あぁ、そういうことか。そりゃあり得ないよな」


 それならさっきの態度にも頷ける。一緒の学校に通う云々は由江さんの冗談か。

 そう思って由江さんを見てみると―――あれ? ニコニコしたまま何も言わないぞ?

 首を傾げる俺の姿に何かを察したのか、豊さんはどことなく申し訳なさそうな口調で訊いてきた。


 「紫亜はともかく……カナタ君、キミは父親アイツから何も聞いてないのか?」


 「はい。特に何も……。

 恥ずかしい話なんですけど、俺、あの馬鹿に不意打ちを貰って気絶させられままダンボールに入れられて引っ越し業者に運ばれたみたいなんですよ―――あ、でもその直前に“一人暮らしをさせる”とかヌカしてました」


 「実の息子に対する扱いとはとても思えないな」


 「お父様。そもそも人に対する扱いですらないかと」


 「あらあら。相変わらずねぇ。シン君は」


 ここに至るまでの事情を簡単に説明したら、常識人二人からドン引きされた。まぁそりゃそうだよな。俺もあんなのが自分の父親だと思うと悲しくなってくるぜ。

 あと由江さんは俺が思っている以上に大物なのかもしれない。


 「ま、まぁカナタ君の扱われ方は置いておくとして―――しかしそうか……アイツからは説明されていないのか―――ということは―――よなぁ」


 ハァァァァァ、とそれはそれは重い溜息を吐く豊さん。クッソ、嫌な予感しかしないぞ。

 焦らされていると感じたのは俺だけではなかったのか、少し苛立った口調で紫亜が口を開く。


 「お父様、お話しが少しも見えてこないのですが、結局この方がいったい何なのでしょうか?」


 「ですね。豊さん、正直碌なことじゃないとは思ってるんですが、何か知っているなら教えてもらえないでしょうか?」


 俺たち二人に迫られる豊さん。だが余程言い辛いことなのか、中々教えてはくれなかった。

 


 「あー、うん。そのだね、カナタ君。キミには非常に、ひっじょーーーに、迷惑なことになると思うんだけどね―――」


 「カナタ君は明日から、“紫亜ちゃんと同じ女子校学院”に通ってもらうことになってるのよ」









 「「え?」」


 由江さんの口からあっさりと飛び出された言葉に、そんなことしか言えない俺たちであった。



 


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