Bullet:2




 意識が浮上するのを自覚した。


 (……そうか。俺は親父に不意を突かれて気絶オトされたのか)


 ギリっ、と悔しさを噛み締める。分かってはいたが、俺と親父の力量差にはまだまだ大きな隔たりがあることを認めざるを得ない。


 (まあいい。いや、良くはないか。あのアーパー野郎はいつか殺すとして―――どんな状況だ?)


 今、俺はダンボールのような物に体育座りに近い体勢で入れられていた。息を潜め静かに身じろぎしたところ、身体に異常は感じられず、また手足や口も拘束されてもいなかった。


 (……十中八九、親父の仕業に違いないな)


 何せ投擲用スローイングナイフだけしか携帯していなかったはずなのに、今分かるだけでも強襲用バタフライナイフ、ピアノ線ミュージックワイヤー、そして箸よりも長く扱い続けてきた“愛銃”がホルスターに収まっているのを感じられた。


 (室内だな。人の気配は―――一人か。イケるな・・・・) 


 いつまでもこんな所にいる理由はない。幸いにも部屋にいる人間は一人だけのようだし何とでもなるだろう。

 そうと決まれば後は実行あるのみだ。室内にいる奴の気配が緩んだ瞬間に飛び出すぞ―――





 ―――……今だっ!!


 ザッ―――!


 バタフライナイフでダンボールを切り裂き、すぐ様飛び出した俺は室内に一人でいる人間に肉薄する―――!





 え?


 っと思った時には既に行動を終えていた。

 背後から襲い掛かった俺は、右手と壁で挟んで彼女・・の両腕を押さえ込み、左手に持ったバタフライナイフは頸動脈に添えていた。


 (…………ヤバイ)


 何がやばいってシチュエーションがやばい。

 腕の中にいる女の子が何者かは分からないが、少なくとも下着姿の女の子を後ろ・・・・・・・・・・から拘束している・・・・・・・・この状況はマジでやばい。


 そんな硬直したシチュエーションが数秒。

 まずはお互い冷静になり、誤解を解く所から和平への第一歩は踏み出されることを訴えようと、俺は重くカラカラに乾いた口を開いた。


 「なぁ、ま「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!」るよなうん!!」



 はいムリー。






~~~~~~~~~~~~





 「スミマセンでした」


 一目見ただけで分かる上等なソファから飛び跳ねるように立ち上がり、最敬礼で詫びを入れる。頭を下げたことによりメデューサもかくやといった視線からは逃れたが、代わりに目の前に座る女の子・・・の怒気がより一段と感じられ、何とも気まずい。

 だがそんな彼女の様子とは反対に、彼女を挟んで座る男女―――彼女の両親だろう―――からは、意外にもそれらの感情が伝わってくることがなかった。


 「頭を上げなさい。キミは何も悪くはないんだ」


 「お父様、そんなわけ―――」


 「紫亜ちゃん」


 「………………はい」


 ……ビンゴか。まさか本当におじさんもおばさんも味方してくれるとは……ホント助かります。二人の間に挟まれたお前も、オセロの石みたいにクルッっと意見をひっくり返してもいいんだぜ?

 

 「めっちゃ不満そうなのな」


 キッ!


 「はいすみませんでした黙ります」


 怖っ。寛大な心を持つご両親とは違い、当然と言えば当然なのかもしれないがこのお嬢様はまだ腹に据えかねているようだ。そんな偏狭な心の持ち主だから真っ平ら・・・・なんじゃないのか?


 俺は目の前で親の仇とばかりに睨み付けてくる少女に視線をやった。


 腰まで伸ばされた黒髪と上品に着飾った様はいかにも良家のお嬢様然としており、細く整えられた眉と少しツリ気味の目からは、まるで人に懐かない高貴な猫を思わせるイメージを与えることだろう。

 

 「……何ですか。人の身体をジロジロ舐め回すように見て……この強姦未遂犯変態


 「いつ俺がそんな風にお前を見たんだよ……只でさえ今微妙な立場なんだから、人聞きの悪いことを言うのは止めてくれ」


 「何が勘違いですかっ! き、着替え中の私を、背後からだ、抱き締めて……何をするつもりだったのですかっ」


 「何って、そりゃ……」


 人質に取るつもりだったんだ。

 と、そんなことを馬鹿正直に伝えて怯えさせるのも何だかな……。

 つい言葉に詰まる俺をどう思ったのか、お嬢様は只でさえ興奮により赤らめていた肌をより一層深いものに染め上げた。


 「こ、言葉に詰まるような行為をしようとしたのですね……!

 くっ、お父様、お母様! この方にはやはりすぐにでもお引き取り願うべきですっ! あぁ、ほらっ。見て下さい見て下さいっ! あの目は隙あらば私を妊娠させようと、虎視眈々と狙う狩人の目です!」


 「腰パンパンだなんて、お嬢様にあるまじき発言だな。さてはお前、尻軽女ビッチか?」


 「“虎視眈々”と言ったのですっ!! そして誰がビッチですかっっっ!! 私はまだキスもしたことがない乙女ですっっっっ!!」


 フカーーーッ! っとそんなに顔を真っ赤しさせて大丈夫なのか、ってくらいに怒り狂うお嬢様。

 やべ。少しからかうだけのつもりだったんだが、やり過ぎたな。しかもいらん情報まで知っちまったし。これはフォローが必要だよなぁ。

 

 「お、おう……そっか、悪い。何て言うか―――ドンマイっ!

 だ、大丈夫だ。“貧乳はステータスだ。希少価値だ”って格言もあるくらいだし。その内、良い男と出逢えるよ。うん。多分。きっと。Never Give Up!」


 「ぶっ殺しますよ!?」


 ……俺のフォローは、ぺったんこ娘お嬢様のお気に召さないようなのであった。



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