case-1

俺と守

「絶交だ」


 あいつに。守にそう言われる日が来るなんて想像もしていなかった。


 俺が守と出会ったのは小学校に入学してすぐのことだった。入学直前に引っ越してきた俺はクラスに馴染めず、自分の席で時間が経つのをひたすら待っていた。

「ねえ、一緒に話そうよ!」

 そんな時、そう話しかけてきたのが守だった。俺は嬉しくてすぐに

「うん!話そう!」

 そう返した。

「よかったー!名前なんて言うの?僕は守だよ。」

「えっと、誠二って言うんだ。」

「誠二か!よろしくね。今日から僕ら友達だね!」

 引っ越してきて初めてできた友達。それから俺らは毎日、毎日、日が暮れるまで遊んで、いつの間にか親友になっていた。


 中学生になってからは部活もクラスもバラバラだったがお互い暇な時に一緒にゲームをしたり、宿題をしたりした。部活引退後は同じ高校を目指して毎日一緒に受験勉強をした。


 俺らの関係が変わり始めたのは高校に無事合格してしばらくのことだった。

 守はいわゆる不良とつるむようになり、暴力沙汰を起こすことは無かったが学校をサボり、飲酒や喫煙をしていた。

 中学の時の同級生はみな、守を避けるようになり、いつの間にかこの学校に守の居場所はなくなっていた。

 それでも俺は守を見捨てるようなことはしなかった。どんなことがあっても守は俺の大切な親友だから。親友として守のために出来ることをしようと決めていた。


 俺が守をゲーセンで見つけた時、俺は守に話しかけた。

「なあ、守」

 振り向いた守の目は深く、鋭かった。

「なんだよ。誠二か。何か用か。今忙しいから後にしてくれ。」

 ぶっきらぼうに守は言った。

「すぐ終わるよ。少し聞いてくれ。」

「早く終わらせろよ。」

「分かってるよ」

 俺は守のためだと自分に言い聞かせてこう言った。

「守、もうやめよう?飲酒も喫煙も。未成年は禁止されているし、それに守の体に良くないよ。学校だって2人で頑張って勉強してやっと受かったんじゃないか。それを棒に振る気か?」


 ドンッ!!!


 守はクレーンゲームの台に固く握った拳を叩きつけていた。それは俺が初めて見た、怒った、守だった。

 今までも些細なケンカは何度もあった。でも、ここまで怒る守は見たことがなかった。


「黙って聞いてればなんだよ!俺の何がわかるって言うんだ!お前まで俺を遠ざけるのかよ…。お前なら分かってくれるって信じてたのに。」

 守の声は震えていた。守の目は怒っているようにも悲しんでいるようにも見えた。

 俺は何を言えばいいか分からなかった。長い沈黙。それを破ったのは守のこの言葉だった。


「絶交だ。二度と俺の前に現れるな。」


 その刹那俺の中の何かが崩れ、頬には涙が伝っていた。

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仲直りコーポレーション 伽耶 雫 @mametaro

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