第127話 月下の鬼 その8

 A子はもう一度手鏡を手にして、自分の身体と顔を見回した。


「ナニコレ……大きくなってる」


 A子は自分の胸に両手を当てる。そして絶壁だった自分の胸が少しふくらんでいる事を実感した。

 胸だけではない。小学生のような身体が目覚めたら成長していたのである。


「成長といっても中学生くらいだけどなー」


 A子は無言で、膨らみを帯びた自分の胸をしばらく触り続ける。


「……あのなぁ」


 取り憑かれたように触っているA子の姿を見てご主人様は呆れる。


「……肉襦袢?」

「いやいやいや」


 ご主人様が頭を振ると、A子は突然寝間着を脱ぎ、上半身を露わにする。


「お、おいっ」


 ご主人様は慌てて目を背ける。

 思春期の少女のようなその膨らみは決して作り物ではなく、肌は触れる指の感触を理解していた。


「私、胸があるッ!」

「驚かなくて良いから胸仕舞えっ!」

「だって胸ありますっ! ほらっ!」


 混乱と興奮に支配されているA子はご主人様に胸を自慢げに見せて騒ぎ始めた。


「何やってんのお嬢様……」


 いつの間にか現れたB子が呆れ返っていた。


「一体、何があったんですっ!?」


 錯乱状態のA子はご主人様に訊いた。

 ご主人様は何故か答えに窮したような顔をするが、やがてため息を吐く。


「倒れているお前さんを見つけてな。凄い熱があったから寝かしていたらでかくなっていた」

「何そのアリエナーイ!」

「とにかくオチツケ」

「うー、うー!」


 ご主人様はどう教えるか迷った。


 ――あの晩、倒れているA子を見つけたのは事実だが、その場に居たある人物の事は告げるべきかどうか迷っていた。


「よう秋徳、元気にやってるか?」

「師匠ぉ!」


 師弟の10年振りの再会。気絶しているA子の隣で紫煙を散らしていたのはご主人様の師匠、いづなであった。


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