第128話 月下の鬼 その9

「師匠、何でここに?」

「この近くで最近取った弟子に修行させている」

「へ、へぇ……、って、ソレはともかくA子が何故倒れている?」

「仕事したからな」

「仕事?」


 ご主人様は困惑するが、しかし直ぐにその意味を理解した。


「――まさかA子に!」

「多くは聞くな。それがこの娘の祖父との〈契約〉だからな」

「〈契約〉?」

「俺の〈契約〉と言ったらひとつしかないだろ」


 そういっていづなは不敵に笑う。ご主人様は背筋がぞっとした。

 

「し、しかし、それがA子とどういう……」

「このままにしているとこの娘、凍死するぞ」

「あ」


 ご主人様は慌ててA子のもとに駆け寄った。


「後は任せる。2日ほど寝てるハズだ、じゃ」


 そう言っていづなは月明かりの中に消えていった。

 結局ご主人様が知り得た事は、師匠がA子の祖父とある“契約”を結び、それをA子に施した事だけであった。



(その“契約”が問題なんだよなあ)


 ご主人様はもう一度ため息を吐いた。


(幼児体型のA子の身体を弄ったのは師匠の仕事なのは判ったが……)


 ご主人様はまた成長したA子を見た。


(何この中途半端で残念な成長。これでもまだ年齢と一致しないし。一体、何の目的で師匠はA子の身体を作り替えたんだ?)


 ご主人様は考えるが、どうしても理解出来ない。とはいえ師匠の仕事を今までまともに理解出来た事など無かったのも事実であった。


(……荒ぶる神の仕事はよく分からん)


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