第125話 月下の鬼 その6

(また貴様か)


 着地した少女は、自分が現れた方角を睨み付けた。

 そこには、煙草をくわえ、ジーンズと法被をラフに着こなす肉感的な女性が立っていた。

 

「こっちのほうに現れたか」


 ジーンズの女性は呆れるように言うと紫煙を吐いた。


「その娘には手を出させない、って前にも言ったろ、皇城夏穂梨(すめらぎ かおり)」

「え」


 その名を聞いた途端、A子は愕然とした。


(ちぃ)


 少女は舌打ちして闇へ溶け込んでいった。


「逃げたか。……ん?」


 ジーンズの女性はA子が愕然とした顔で見つめていることに気付いた。


「あんた、一体……」

「まー、覚えちゃいないか。そりゃあボロボロの時以来だからなあ」


 ジーンズの女性は頬を掻いた。


「俺の名は――あ」


 そこまで言った時、A子が激痛のあまり気絶していることに気付いた。


「無理、無いかぁ」


 ジーンズの女性は突き刺さったノミを拾い上げた。


「あの唐変木の所に預ければ、と思ったが、予想通り良い方に転がって治ってきたな。

 まぁ、この様子じゃ今までずうっと我慢していたのかもしれんな、遅れてすまん」


 ジーンズの女性は詫びると、徐に懐から一本の木槌を取り出した。

 年季の入ったそれは不思議な青白い光を帯びていた。拾い上げたノミも何時の間にかうっすらと光を帯び始めているではないか。


「お疲れさん」


 ジーンズの女性はくわえ煙草で不敵に笑う。


「さあ、その魂に合うよう突貫工事といきますか」

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