第122話 月下の鬼 その3

 400年生きた猫又が歓喜に嗚咽している頃、水行を続けていたご主人様がようやく滝壺から出て来た。


「ささささ寒い……! 師匠との約束とはいえ毎年コレはキツイわぁ……え?」


 ご主人様は思わずくしゃみをしそうになった時、岸の暗がりからゆるりと現れた人影に驚いた。

 

「あれ、A子じゃないか」

「こんなクソ寒い夜に修行なんて、良くやりますわ」


 A子は呆れながらご主人様にホカホカのタオルを差し出した。


「そりゃこっちの台詞だ。いつからここに?」

「トイレに起きたらここへ来る姿を見かけまして。

 で、まだ起きていたお兄様と偶然お会いして、修行の話を聞きまして、替えの服を用意しました」

「そりゃあ、どーも」

「とっとと上がって身体をお拭きなさいな。温泉も用意出来ています」

「準備いいな」

「そりゃあ私は貴方のメイドですから」


 そう言ってA子は滝壺から出て来たご主人様にバスタオルを渡した。


「くしゅん」


 くしゃみをしたのはA子のほうだった。


「そんな薄着で来るからだ」


 ご主人様は脇の岩の上に置いていた自分のジャンパーをA子に差し出した。


「私よりご主人様のほうが寒いでしょうに」

「鍛え方が違うわ、ほらっ」

「は、はい……」


 A子は折れてジャンパーを羽織った。


「俺はこのまま温泉入るわ。風邪引かないうちに布団に入れ。……何だ、顔赤いぞ」

「何でもありませんっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る