第111話 里帰り(その16)

「そう言えばご主人様」

「食うか喋るかどっちかにしないかA子」

「もぐもぐ。崖登っていた時に思い出したんですが、以前私が登山の話をした時に、山登りは小学生以来とおっしゃいませんでした?」


 するとご主人様は不思議そうな顔をする。


「……自分ん家の敷地で山登りって言う?」

「そうきたか」

「ていうか今敷地って言いましたよね」

「ああ。この辺りの山、うちの所有物だし」


 ぶぅっ!A子は盛大に噴き出した。


「ここの辺りって国立公園じゃないんですかっ?」

「ああ、向かいの佐藤さんちと田中さんちの辺りはそうだけど」

「向かいって…」

「向かいに見える山と、その隣にある山」

「イヤその説明ではさっぱりわかりません」

「ウチが説明します~」


 そう言って怒依が地図を取り出した。


「えーと、この山がここで、ここを中心に、こう、こうと」


 怒依は地図の上を指先でなぞり続けた。


「…何?」

「わかりません~?」

「充分分かり易いんですけど、分からないのはなんで個人でこんな広大な敷地持ってるんですかっ!?」

「私の見立てに間違いなければ軽く新宿区が入りますよこの範囲…っ」


 B子が呆れるように言った。


「でも住んでいるのは数人で山ばかりだから宝の持ち腐れも同然ですけどねぇ~」

「山奥だからなあ」

「あー、でも最近は地デジが入るようになったんですよぉ~スカイツリーが出来るともっと観られるかも~」

「スカイツリー?」

「本堂の裏を登って行くと開けるんですが、そこから東の方に見えるンですよぉ~」

「うちのへやだとはしっこしかみえませんよねぇ、うらやましい」

「アレはほとんど見えないに等しいと思うが」

「東の方角に一本の線が見えた時は吃驚しました~、ウチ、まだ近くで見た事ないんですよ~」

「だったら一度うちに泊まりに来ると良いよ。どーせ兄貴の仕事で都心に来るんでしょ」

「ありがとうございます~。でも春慶様、そう言うのにはあまり興味ないみたいですし~」

「前に私たち観に行った事ありますよ。作りかけなんて今のうちしか観られないし一度くらいは」

「そうですよね~考えておきます~」

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