第73話 秋葉原探訪(その12)

「おいしくなーれ、萌え萌えきゅーん」

「おひょひょひょ」


 老人は注文したケーキを持ってきたメイド店員のお約束事を堪能していた。


「……何か神様の価値が大暴落している気がする」

「てゆーか本当に神様なんですか」


 困惑するA子が訊く。


「まぁ、神様だという確固たる証拠が無いのも確かではあるが」

「おじーちゃん」


 メイド店員の一人が液晶の割れたPSPを持ってきた。


「これ、弟が壊しちゃったの。またいつものやってくれない?」

「おお、よろこんで」


 老人はPSPを受け取る。

 そして手刀一線、PSPをたたき割ってしまった。


「ちょっと!?」


 次の瞬間、砕けたPSPが瞬時に元に戻った。

 しかも元通りになったPSPは、割れた液晶までもが修復され、新品同様になったのである。


「ホレ、直った」

「わー、ありがとう!」


 メイド店員は直ったPSPを嬉しそうに掲げた。


「おじーちゃん、アタシのケータイも」

「私、iPhoneの液晶の傷も直してー」


 店員たちが壊れ物を持ち寄ってきた。

 老人は次々と壊れた品を手刀でたたき割って即座に修復していく。


「きれいになーれ、もえもえきゅーん」


 この神様ノリノリである。


「凄いでしょ?」


 呆気にとられているご主人様たちにメイド店員の一人が言った。


「あのおじーちゃん、ああやって直してくれるの」

「……ご主人様」

「神様って本当にいるんだ」


 ご主人様とA子の脳裏には、自室に転がっている、うっかり投げつけて壊した数台のPSPがよぎっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る