アンモナイト寿司

佐藤.aka.平成懐古厨おじさん

いつか食べたい一皿

 生け簀の中を、無数のアンモナイトが泳いでいる。


 大きな貝殻を背負っているせいか、あまり早く動けないようだ。実際、アンモナイトは貝殻を巨大化させ過ぎたせいで、動きが鈍くなり、それが原因で絶滅したという学説もある。


 やはり、太古の昔にこの世から消え去ったはずの生物を人間の都合で蘇らせるというのには、罪悪感がある。ましてや、寿司ネタにするという目的なのだし。


 ここは、テクノロジー回転寿司店「ノア」。最先端のバイオテクノロジーによって復元された絶滅した海洋生物を、寿司ネタとして提供している店だ。


 アノマロカリス、ハルキゲニア、ウミサソリ、三葉虫、リードシクティス。古生物好きには、たまらないラインナップだ。しかし、これらは私の食べたいネタではない。


 私の目の前に置かれた、 一見すると、イカゲソのような一皿。

これこそが、私のお目当ての品、アンモナイトの寿司である。


 とりあえず、醤油をかけてみたものの、さすがに抵抗感があり、中々食べる気にはなれないのだ。だが、アンモナイトを食べるのは、私の長年の夢。ここは思い切って、太古の珍味を食らい尽くすべきなのだ。


 しばし、アンモナイトの寿司と対峙した後、私は覚悟を決めた。醤油が染みたアンモナイトの寿司に箸を伸ばし、恐る恐る口に入れる。


 既に地球上から消えてしまったはずのその味は、ほのかに甘く、まろやかで、少し苦かった。そして、醤油との相性が抜群だった。食感も、歯ごたえがあるが、固過ぎるという事は無く、絶妙である。


 意外とイケルな、これ。というかむしろ、かなり美味い。


 アンモナイトが生き延びた。

 ありえたかもしれない、もしもの世界。


 そんな世界の味に、私はなんとも言えぬ背徳と愉悦を感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンモナイト寿司 佐藤.aka.平成懐古厨おじさん @kinzokugaeru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ