41 初デートは
「今日は、学校休みたいな……。でも、特待生にならないと。成績を一つでも優から外せないから」
体が、学校へ行く支度を勝手にして、誰も起きて来ない時間から、家を出た。
家族に今の自分をこねくり回されるのが面倒臭い。
ただ、志朗と寛にだけは、お世話をして行ったのをうっすらと覚えている。
私は、絹矢先輩に好かれていると思っていた。
だって、何でもよく話せたのだから。
絹矢先輩とは、何でも気が合って、一緒にいて感じのいい人だとしか思わなかった。
アニメ研に入部して暫く後の話だ。
学校の広い畳の間で、合宿をした。
セル画を描いたり、アニメビデオを観たりした。
女子は勿論、泊まりはダメだ。
ギャルは私しかいないから、私が帰ればいいだけだった。
この時は、女子は帰りなさいで筋が通っているじゃないか。
――何で、みくちゃんとやらは、非合法で生きているの?
合宿の時の打ち上げで、又ですかって飲み会の時、絹矢先輩に気持ちを伝えた。
「四年生でお別れになるのが寂しいですよね」
「そう?」
「来年も一緒に合宿をしたいな。こうして、打ち上げにも行きたいわ」
途端に、絹矢先輩にひゃっほいの神が降りた。
この夏になる迄に、デートもしたんだよ。
忘れていないよね?
男の人とデートをするのは、初めてだった。
「適当に決めて」
つれなくされたが、映画情報誌アノンを買って、いっちゃん面白そうだとジャッキーの映画にした。
喜んでいるのかいないのか分からないが、待ち合わせの三十分前に
おおーっとびっくり、まさかの絹矢先輩が私より先に来ていた。
文庫本なんて読んでいた。
私は大抵三十分前行動なので、友達を待つのが普通だった。
そんな時間前行動の話の中に、実家が限界集落で、そこに暮らしていた絹矢先輩の今迄の事情があったと分かった。
その後、丁度よくお腹が空いたので、二人で
多分、何だか分からないで、スパゲッティーを食べていた。
貝殻の欠片が入っていて、ちょっとだけ食べにくかった。
「さーちゃん、美味しいね」
「そうですね。ん、貝が絶妙です」
まさかの善生と葵のデートコースと同じとは思わなかったわ。
映画からパスタへGO!
この頃は、私は辛党ではなかったので、タバスコは遠慮していた。
絹矢先輩がどうしているかなんて、恥ずかしくて見られなかった。
それからが、想い出深い。
南野デパートを色々とお話しをしながら歩いて、とうとう屋上に着いた。
屋上の楽しい楽しいペットコーナーで、ちょんちょんとうさぎさんを触ったりした。
風遠しのいい屋外はとても清々しく、私の長いポニーテールがそよいだ。
お手製の全円フレアスカートをきゅっと撫で、手でまとめると、妖精の気分で、白いテーブルつきの椅子に腰掛けた。
絹矢先輩は、缶コーヒーをジーンズに二つ入れて、両の手に二つ持って来てくれた。
悪いけど、そのジーンズに入れるのは、乙女としてちょっと困った。
それから、ずっとずっと話したんだ。
何でもいいから、胸にあるものを。
今の家庭教師のアルバイトで大変な生徒を抱えている事を話したり、うさぎとずっと暮らしている事や何かを、一所懸命に話した。
ああ、この人とは、ずっとずっとお話しができると思ったものだった。
徹夜で電話したその日、アニメ研には寄らずに帰った。
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