40 黒電話の徹夜

 それから、暫く何回も間を開けて電話をした。

 絹矢先輩が帰って来たら、きっと出てくれると思って。


 ジリリリリンジリリリリン……。


 電話を鳴らす。


 ガチャリ。


 出る。


 チン。


 一言もなく電話を切られる。


 ジリリリリンジリリリリン……。

 ガチャリ。

 チン。


 ジリリリリンジリリリリン……。

 ガチャリ。

 チン。


「何で、話もしてくれないの? ファミレスって、いつもお金がないと言っているのに珍しいな。何しに行ったんだろう。それに、さっきの人は何なの?」


 もう一回、電話しよう。

 誰もいない訳ないんだ。

 電話を切る人がいるのだから。


 ジリリリリンジリリリリン……。

 ジリリ……。


「はい」


 野太い声がした。


「き、絹矢先輩でしょうか?」

「何か用事?」

「用事かって、電話に出てくれないから」

「出掛けているってタケッチから聞かなかった?」

「ええ、ファミレスに行ったと、男性に伺いましたが」

「だから、留守だったんだから仕方がないだろう」


 キャハハハハハハハ……!


「賑やかですね」

「皆いるからね」

「声の高い人は、女性ですか?」

「ああ、女子もいるけど。だから、何?」

「何で、絹矢先輩の所にいるのですか?」

「友達だよ。いいじゃない」

「真夜中ですよ。帰って貰った方がいいですよ」

「何で指図されなきゃならないの?」

「何でって、男性の部屋に女性がいる時間じゃないと思いますが」

「俺がやらなきゃいけないの」

「はあ? 夜中に男性の部屋に女性を呼ぶ事ですか?」

「駅の掲示板に書いてあったのを見逃しちゃったんだよ。だから、ファミレスにいると書いてあったから、迎えに行くの。当然でしょう」

「全く分からないのですが。だったら、皆さんで、ファミレスに行ったらいいと思いますが」

「何で? 俺が見落としたんだよ」

「でも、私はおかしいと思います」

「直接話せばいいよ」


「ほら、みくちゃん。何か話して」


 黒電話の相手が知らない女性になった。


「何か、あんた邪魔なんだけど。うざいよ」

「もう、普通はおうちに帰る時間だと思いますけれども」

「そんなのあたしの勝手でしょう?」

「いえ、男性とばかりいていい時間ではないです」

「あたしは、待たされたんだからね! 悪いのはそっちでしょう!」


 おいおい、どうなちゃったの?

 絹矢、しっかり躾しなさいね!

 この女、バカなんじゃねー?


 電話口の向こうからも聞こえた。


「よーするに、出ればいいんだ。はははは!」

「え……?」

「ばーか。死ね!」


「分かった? 間違っているのは、そっちなんだよ」


 ガチャリ。


 絹矢先輩の言葉と共に電話が切れた。

 私は、頭が白くなった。

 考えられない。

 何でこんなに適当なの。

 全員で、こっちを攻撃して来る。

 激しい興奮を覚えて、私は電話の子機を持って二階の自室へ上がった。


 プルルルプルルル……。

  プルルルプルルル……。

   プルルルプルルル……。

    プルルルプルルル……。

     プルルルプルルル……。

      プルルルプルルル……。

       プツリ。


 電話はある程度掛けると自然と切れてしまう。


 プルルルプルルル……。

  プルルルプルルル……。

   プルルルプルルル……。


 誰、あのみくちゃんって。

 何様はこちらからだわ。

 何?

 何様。


 プツリ。


 何で、今度は誰も出ないの?


 プルルルプルルル……。

  プルルルプルルル……。

   プルルルプルルル……。




 空が白み、新聞配達の音で、時を学んだ。

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