35 歌うべし
「はーい! 新入生、何か芸がない? お披露目してください」
私が絹矢先輩と話している内に、新しいOGらしき方が入って来て、すぐに声を上げた。
「浅賀聡子先輩です。ようこそ」
レッド先輩が部長として対応した。
パチパチパチパチ……。
「ああ、今、石渡も来るわ。はは、相変わらず」
「おーっす。こんばんは。毎度、石渡一千です。バクチ打ちやってます」
「それは、売り出し中の漫画家でしょう」
「上手いこと言うねー、部長。一度も掲載なしんこだよ」
ははは……。
「所で、芸は?」
「浅賀先輩、そこ拘りますね」
「私なんて阿波踊りやったのよ! 徳島だからって」
「新入生! はい、芸! はい、拍手よー!」
「おう」
パチパチパチパチ……。
「新入生! はい、芸!」
パチパチパチパチ……。
「さーちゃん、何か歌ったら?」
「ああ、歌ですか……。そうですね……」
んー。
唱歌と童謡とアニメソングしか歌えないから、えーと。
拍手の中、天井を向いてしまった。
「何か困っているの?」
「アニソンでもいいのかなって……」
「ははっ。ここは、アニメーション研究会だよ」
「そうだった!」
なーにやってる、私。
「ふわっ。ふわい!」
すくっと立ち上がる。
「いえ、はい!」
アーハハハ……。
「おー、緊張すんな」
「そうそう、緊張しない」
「何をやるの? 阿波踊り? ぷぷっ」
「こーら。冷やかすな、石渡」
あちらこちらから声が飛び交う。
果たしてこんな局面を乗り越えられるか。
「う、歌を歌います。えっと……。アニメソングの……」
「がんばれー。さーちゃん」
うん。
じゃあ、絹矢先輩のために歌っちゃう。
「えーと、『美少女アルバムシリーズの孤高の戦士Aya』のエンディング、『ダーティーハート』を歌います」
……ちゃちゃちゃ。
♪ 誰もが 自由でいられない この闇の世の中で。
♪ 闘う理由もなく 血の涙を流したりはしない。
♪ あなたが 消えてしまうような このまやかしの言の葉で。
♪ 美しくひとさしで こころ
♪ セパレート 魂別つものあらば。
♪ セパレート 我が身をさいて孤高の戦士と呼ばれればいい。
♪ ダーティーハート ダーティーハート ダーティーハート。
♪ HUHUHU HUHUHU HUHUHU……。
ちゃちゃちゃ……。
「お、終わりです」
ほ、本当に歌っちゃったよ。
絹矢先輩のためだからね。
そ、そうよ。
わーん、顔から火が吹いてないかな。
「よー!」
「できるじゃん」
パチパチパチパチ……。
「あ、ありがとうございます。こんなんですけど」
「ヒュー! 新入カンパで、これがないとね」
「がんばったよ」
あちらこちらで、声をかけて貰った。
勇気を出してよかったな。
「では、後は歓談と言うことで、よろしくお願いいたします。それから、夢咲櫻さんは、少々照れ屋さんみたいなので、フォローよろしくです」
うーむ。
部長さんともなると、含蓄があるなあ。
助かりますでっしゅ。
わははは……。
がやがや……。
それからは、楽しくお話しをしていた。
絹矢先輩のみならず、色々なアニ研の方々と話した。
この時は、まだ、このメンバーに異変が起きるとは思わなかった。
「ちょっと失礼」
白い肌を赤らめて、絹矢先輩が席を立った。
「んー? どうしたのかな?」
じょー。
じょろろー。
「要するに、飲み過ぎ?」
飲み足りない私が顔を赤くした。
やだな。
恥ずかしいのを聞いてしまった。
もう、お嫁に行けないんだもん。
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