6 大学生(三)

33 命名

 ――一九九三年、五月。


 ガヤガヤ……。


 アニ研で新歓コンパがあった。

 T大前の線路沿いにある『のみどころたぬきさん』の二階、狭い座敷である。

「おー、渉外、望月よお。大体来たー?」

「現役は皆揃っているっすね。後は、畜産の八重樫農やえがし みのり先輩と経済の石渡一千いしわたり かずみ先輩に浅賀聡子あさが としこ先輩待ちっす」


「分かった」

 レッド先輩が立ち上がった。

「こんばんは。お忙しい中、ありがとうございます。部長の秋元凌一です。取り敢えず、連絡が取れない方はお待ちしながら、このメンバーで始めましょうか。渉外さん、ビール行き渡った?」

「大丈夫だと思うっす」

「思うじゃなくて、しっかり把握しろや、二年だろう」


 ハハハ……。


「すみません」

「おう、望月、変わらねえなあ。大洞にまだおんぶに抱っこか?」


 ハハハ……。


「ゴホン。えー、それでは……」

 皆、秋元先輩を注視する。

 次第にざわめきも止まる。

「今年も新入生獲得が難しかったのですが、貴重な一名の新入生を迎える事ができました。涙、涙の物語です。ヤロウばかりですが、根は皆優しいヤツらです。愉しくやって行きましょう」

 

「それでは、新入生を歓迎致しまして、乾杯の音頭をとらせていただきます。ようこそ、T大学アニメーション研究会へ! 乾杯!」

 ビールの入ったグラスをかかげる。


「乾杯!」

「乾杯!」


 皆、それぞれに、乾杯とグラスをかかげ、喉を潤した。


 ガヤガヤ……。

 アハハハ……。


 あちらこちらで話に花が咲いていた。

 櫻は、ぽつねんとしていた。

 絹矢先輩のお隣に座れなかったのである。

 割りと離れている。


「呑める?」

 おっと、ぶっくりしたー。

 はあ、ぶっくりしたー。

「ごめん、驚かせちゃった?」

 レッド先輩こと秋元部長であった。

「お酒は、年齢的に犯罪にはならないです」

 十分未成年でない二十二歳の櫻は、お酒もいただいた。

「さーちゃん、呑める方かなって質問だよ」

「好きですけど、家が遠いので、一次会で大抵帰る事になります」

 くそ真面目がウリだけど、そこが、面白くない人になっている。


 諸先輩方から質問の矢が飛び交う。

「はーい! 読んでいるライトノベルってある?」

 OGの方が手を挙げた。

「特にないのですけど、アニメになった作品は気になります。戦艦ものでユーモアがあるのとか」


「好きなアニメ、何?」

「『美少女アルバムシリーズの孤高の戦士Aya』です」


「さーちゃん、俺も質問」

 絹矢先輩が来たー!

 お隣に来たー!

 来たー!


「櫻って良い名前だよね。どういう意味があるの?」


「母が葵と言う花の名前なので、父が、私に女らしくなって欲しいと、平仮名で『さくら』と命名してくれました」

「うんうん」

「母は、そんな話は聞いていないと喧嘩したらしいのですが、認知して欲しいから我慢したそうです。漢字にして欲しいと願ったから、今の旧字体の『櫻』になりました」


「自分の名前が好きです。特に漢字が気に入っています。でも、母に言わせると文句が出るのですがね」


 櫻は、苦笑いをした。

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