24 三月のゆりかご

 ガタリ。

 ガタ、ガタ。


 三人とも席を立った。


「ごちそうさまでしたー」

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「旨かったっす」


「はい、どうもー。八百の千が二つで、二千八百円になります」

 愛想が良く、ラーメンの味以外のものを感じた。

「じゃあ、二千八百円ね」

 私が猫の二つ折り財布を開いたら、絹矢先輩が小銭まで揃えていた。


「へ? 絹矢先輩が、奢ってくれるっすか?」

「ギャルだけのつもりだったけど、わっちーもいいよ。今日はね……」

「お金が、厳しいってついさっき言っていたのに。大丈夫なのですか?」

 これは、大変な八百円になると思った。

 てか、又、ギャル。

 恥ずかしいのかな?


「俺は、実家なんで、大丈夫っすよ」

「おー、そう? 千円助かる~」

 正直な絹矢先輩、可愛い。

「あ、私も大丈夫です」

「奢らせてよ」

 拝まれてしまった……。

「は、はい。ありがとうございます。ごちそうさまです」

 ぺこりぺこりと頭を下げた。


 暖簾をくぐって「パラダイス」を出た。

 外は春だと言うのにとても寒かった。

 体をふるっとさせた。


「絹矢先輩、ごちそうさまでした」

「はは」

 帰り道、T大前駅に着く迄、話していた。


「所で、誕生日はいつ?」

 そうだった。

 話していなかった。


「三月十日です」


「俺は、三月十一日」

 そうなんですよね。

 名簿で知ってぴょんと跳ねてしまいましたよ。

「好きだったアイドルは三月十二日なんですよ。それでも嬉しかったのに、絹矢先輩の方が近いんです!」

 何か、絹矢先輩のシャツを引っ張りたい。

 キューってしたい。

「嬉しい……?」

 一瞬笑ってくれたと思った。


「んにゃんにゃんにゃ……」

 ごまかす私。

「猫かよっ……!」

 わっちー先輩に吹かれてしまった。


 ガタンガタンガタンガタン……。


 路線沿いの店に響いていた電車の軋みが、今は私を揺らす。

 まるで、ゆりかごの様に……。


 私は、その電車に乗って、幾つか乗り換えて、自宅へと帰る。

 自宅へ帰れば、又、男と食べたのかとか母に訊かれる可能性は高い。

 今日は、かなり遅くなった。


 帰ったら、うさぎの志朗しろうひろにご飯をあげて、お水も綺麗にしてあげないと。


 何の為に帰るのだろう?

 両親に会う為?

 そこが、私の居場所?

 実家から通っている学生で、家が近いなら納得も行くけど、私は遠い。


 私が生まれた家ではない。

 私は栃木で生まれた。

 どうしようもなく生きるのがやっとの中で。

 私は、三月なのに雪の降る日に産声をあげたと聞いた……。

 振り返れば、二十余年も前の、私の誕生日。


 変わり者とは言え、両親のその時を見てみたいものだ……。


 私は、自分の三月のゆりかごを見てみたかった……。


 そこに、愛があったのか……。

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