23 のぞみ

「……」

「……」

 私が黙ったらいけないよな。


「……二十二歳です」


「すみません……」

 私は、ゆっくりと俯いた。


「俺より一つ上になるのか……? 俺は、二十一だし……」

 もう、ラーチャンは、先輩二人とも食べ終わっていた。

 わっちー先輩は、黙って聞いている。


「驚かせてごめんなさい。黙っていたら、別の形で分かる事になる……。だから……」

 こくっと唾を飲む。

「名簿をもう直ぐ作ると伺ったので、名簿で知られるより、直接お話しした方が良いと思いまして……」


「名簿の話ししたのは、俺だな。お節介しちゃったな」

「お節介だなんて事ないです」

 櫻は、焦った。

 薄化粧も構わず、ハンカチにそっと汗を含ませた。


「いや、違うんだよ……。年が上とか下とかは、悪くないよ。驚いてはいるが……。結構びっくりだが」

 綺麗に食べたラーチャンを二人は下げて貰ったので、礼を言った。

「俺の勝手で、きっと現役の一年生が入って来たとばかり思っていて……」


「私、去年の前期は、管弦楽部にいました。ちょっと、楽器のある部屋で、ヘビースモーカーがいたり、男女もごちゃごちゃしていたので、後退りするみたいに、自然にさようならでしたよ」

 ちょっと根暗な、自分を振り返った。

「後期はどこにも入っていませんでした。退学も考えていたのですよ。」


「そんなに思い詰めていたの?」

 心配してくれたみたい。

 優しいなあ……。

「本気で去りたかったです」

 何故か、絹矢先輩には、話しやすいな。


「じゃあ、続ける事を決めたのは、大変だったね」

「元々、夢があったんですね。それを諦めるには早いかなと」

 自分を振り返って、言葉が、漏れた。


「夢……」


「どんな、夢かな? どうして、この大学を選んだの?」

 面接官みたいな事を言う。

 そう言う話をしているんだった。


「ユニバーシティーで、大学院が併設されている所を選びました。大学院へ進学する為には、浪人しても、四大を入り直して、生命に関する研究職か学芸員になりたいと思ったからです」


「それは、随分と……。しっかりしているね」


「何だか、がんばっているんだ」

 わっちー先輩からも一言あった。


「じゃあ、T大の院に行きたいの?」

 絹矢先輩は、いつも話しを聞くな。

「どこかの大学院には行きます。小学生の時に決めましたから」


「そうなんだ」

「今の所、バイオサイエンス研究所と学部の育種研と二足のわらじです。来年から、コースに選抜がありますが、学芸員の資格を取得して考えます」

 私は、一気に話してしまった。

「就職は、分からないですしね。先ずは卒業です。その前に、特待生も取らないと、アルバイトだけでは両親に悪いです。既に、金銭的には、申し訳ないんですけどね」


「俺は、百姓になりたいんだ。牛もやりたい。肉牛にくうしだよ。さーちゃんののぞみとは、違うんだ」

「実家に帰って、花や牛をやりたい」


 ガタンガタンガタンガタン……。


 路線沿いの店に電車の軋みが響く。


 随分、アツくなってしまった。

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