22 二つ目の大学

 こうして、わっちー先輩も交えて、絹矢先輩と「パラダイス」でごはんにする事にした。

「へいよ! ラーチャン二丁にタンメンあがり!」

 店主が奥さんと三人前を一度に運んでくれた。

 赤いテーブルにキチキチと並んだ。


「うふふふ」

 私は、堪らなく楽しくて笑ってしまった。

「あは。楽しそうだねえ、さーちゃんの笑った顔は可愛いね」

 えー。

 いやん、そう?

 多分、頬が紅潮していると思って、慌ててムンクの叫びみたいに隠しちゃった。

「さーちゃんって呼ばれているの? 櫻さんだからかな?」

 わっちー先輩も優しそうである。

 二人っきりの時よりも寧ろ落ち着くかも知れない。

「へーい」

 私は、お冷やで一人乾杯をした。


「何か飲ませたっすか? 絹矢先輩……」

「いや、雰囲気かと……」

 二人とも私をじっと見ている。

 そして、のってくれた。

「へーい、カンパーイ!」

「いええーい、カンパーイ!」

 もう、何だか分からない。


「いただきます!」

 箸で麺からいただく。

 伸びたら勿体ない。

「タンメン美味しいですねえ」

 ちゅるちゅる……。

「具沢山が又、良いですねえ」

 もぐもぐ……。

 安くても、もやしは天国。

 木耳きくらげ極楽。


「俺、チャーハンが旨い店が好きなんだ」

 へえ、流石、ラーチャン好き。

「勿論、ラーメンもだよ。ラーメンなら初めて行く店は塩を頼むよ」

「拘りがあるんですね」


 余程お腹を空かせて来たのか、わっちー先輩が、飲む様に食べ、お冷やに口を付けた。

「俺は、先輩が旨いと言った所で外した事ないっすよ」

 ことっと空のコップを置いた。

「ぐるめハンター並みですね。三ツ星探しができるかも」


 暫く黙って食べていた。

 ちゅるちゅる……。

 ラーメンは、母上の葵は出前でしか食べなかった。

 お店で食べるのは美味しいんだなあ……。


「所で、さーちゃんは、現役だよね? 見た感じ。三歳下かあ。若くていいね」

 絹矢先輩から、シルクアローが飛んで来た。

「え、えーと、幾つか受験したのですが、希望の所が落ちてしまったので、浪人しました。神保町のS予備校に通いました。そんなに賢くないですよ」

「若く見えるからさ、それに賢そうだし」


「若い! 賢い? どっちも違いますよ。賢かったら浪人しませんよ。お世辞が上手ですね」

 タンメンを食べて出た汗と冷や汗をハンカチで拭いた。


「それから、言いそびれていた事があります」

 割り箸を置いた。

 言わなきゃ。

 今の内に言わなきゃ……。

「何だい?」


 ごくりと唾を飲み込んだ。

 もう、逃げない。

「二年生なんです。新入生じゃなくて」

「……。浪人で、二年生?」


「まだ、隠している事があります」

「何でしょう?」

 曇った眼鏡を絹矢先輩が拭いた。


「私、他大学出てます」

「そうなんだ。どこ?」

 眼鏡を掛けて、私を再び見つめた。


「東京のN美の短期大です」

 言ってしまった!

 とうとう殆ど喋っちゃった……!


「びっくりしたな……」

「結局……。今、何歳……?」


 後に聞くと、本当にびっくりしたらしいです。

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